⑩ 18・19世紀のヨーロッパにおける扇製作とその装飾の諸様相に関する研究研究者:神戸ファッション美術館学芸員三木由美子この度、イギリスのファン・ミュージアム(注1)において、18・19世紀に製作されたヨーロッパの扇の作例について調査研究する機会を得た。神戸ファッション美術館が所蔵する扇コレクション153点と同館の所蔵資料との比較や、入手した数々の文献資料によって、類似した扇が多数現存していることがわかった。また、今まで気がつかなかった様式や素材について、同館館長(注2)から貴重なアドバイスを頂戴することができ、扇コレクション153点(注3)に関する素材、技法、装飾様式に関するデータの不詳部分については、そのほとんどを明らかにすることができた。結果として、神戸ファッション美術館の扇コレクションを様々なカテゴリーにおいて分類、体系化することが可能となった。扇メーカーについての調査に関しては、渡欧最中に危ぶまれていたイラク戦争を考慮して、次回に来館を延期してはどうかという、パリ市立扇博物館からの申し出もあり、予定していたフランスでの調査は次回に見送ることとなった。従って、ファン・ミュージアムの収蔵品や現地で収集した文献資料との比較によって明らかとなった、扇資料のデー夕、特徴、その時代背景などについての紹介をもって、今回の研究報告としたい。はじめに1.表について別紙の表は、扇の分類表であるが、扇を分類する上で適当と思われるカテゴリーとその項目を簡潔にまとめたものである。扇153点全てを分類し、研究報告とするには、文字数と図版資料の枚数制限もあり不可能であった。従って、153点から各カテゴリーにおいて典型と思われる扇、あるいは複数のカテゴリーで説明可能な扇21点を選ぴ、収蔵品番号と併記している。カテゴリーの「時代」については、ヨーロッパの扇の歴史的変遷が服飾の流行と密接なつながりをもっているため、服飾史と同様の時代区分で分類するのが最も妥当と思われた。ここでは、一般的なヨーロッパ服飾史に倣い、フランスを中心とした様式区分を採用した。「構成・形」については、扇の2つの基本タイプ「ブリゼ」と「フォールデイング」以外に、18・19世紀において発展した特殊な形やシステムを項目としてあげている。-492-
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