鹿島美術研究 年報第20号別冊(2003)
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の場合と、表裏で貼り合わされている場合がある。扇面の表に雅宴画風のモティーフ、裏にプットーが描かれ、それぞれ4つのメダイヨンの中に、右から数字、女性の名前、男性の名前、場所がリストになって表示されている。18世紀には扇を使った言葉遊びが流行し、親しい人たちが楽しむゲームのために、このような特種な扇が作られた。ルイ16世時代の初期になると扇面が大きくなり、この作例のようにサイズも270mm前後の長さになるが、人々は扇を用いて顔を隠し、様々なニュアンスの‘扇言葉’で会話をかわした。〔図4〕扇フォールデイングフランスあるいはオーストリア1790 95年頃フランス革命から執政時代にかけて、‘シルエット’と呼ばれるタイプの扇が登場するようになる。王家一族や権力者をシルエットであらわしたもので、扇面の裏や表に半身あるいは全身のシルエットで描かれている。この作例では、表にウィーンの王宮風景、裏にオーストリアの王家一族、すなわちフランツ一世と王妃の胸部像と、フランツ一世の子供達のシルエットがグリザイユで描かれている。同時期の作例は、ファン・ミュージアムのコレクションに見られる(注4)。19世紀に近づくにつれ、扇のサイズは小さくなっていくが、それは、当時流行した衣服のシンプリシイテイを反映している。柄と骨の象牙にほどこされた透かし彫りは繊細で、、柄の彫りにアンピール様式のデザインを認めることができる。〔図5〕扇ブリゼフランス18日年頃L/160mm W /20mm 通常、扇面は左から右へ聞かれるが、この扇は‘ダブル・システム’というタイプで、右から左へも開くように製作されている。聞く向きによって、中央の彩色部分に異なった絵があらわれるようになっており、表と裏で計4枚のモティーフが描かれている。嫁入り道具として製作された扇で、オリジナルのケースが残されている。‘ダブル・システム’の扇には、エロティックな絵が隠されている場合も多く、たいていは右から左へスライドした時に、そうした図柄があらわれるようになっていた。総裁政府から第一帝政時代の扇はフォールデイングよりもブリゼ・タイプが主流で、象牙、骨、角などに細かな彫刻をほどこした作例が多い。19世紀において、扇のサイズが最も小さくなる時代である。〔図6〕扇ブリゼフランス1830年頃L/190mm W/30mm L/250mm W/25mm 面一紙に手彩色柄と骨一象牙骨に透かし彫りと手彩色角に金彩と手彩色-494-

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