⑩モンコル近代美術の基礎的研究研究者:福岡アジア美術館学芸員山木裕子はじめに2002年日本国内5ヶ所で開催された、モンゴルの近代絵画史を概観する初めての展覧会「モンゴル近代絵画展一ーその源流と展開」によって、これまでモンゴル国外ではいうまでもなく、国内においてすらほとんど行われてこなかったモンゴルの近代美術史の大まかな流れが明らかになった(注1)。それと同時に、多くの問題点、そして今後の研究課題も明らかになった。その一つが、モンゴルでは研究対象となりうる多くの作品が保管されているにも関わらず、文字資料・書籍資料の不足により、日の目を見る機会がないことである。今回の調査は、これまで未調査であったモンゴル芸術家組合(注2)の所蔵品や大量の近代作品を有するモンゴル国立近代美術館(注3)の絵画作品を対象に、データを収集し、データベースを作成することによって、今後の研究の基礎的な資料とすることである。現状と調査概要上記展覧会の出品作品は、モンゴル国立ザナパザル美術館、国立近代美術館、モンゴル芸術家組合の収蔵品を中心に、19世紀の仏教絵画から、民主化後の現代絵画まで合計96点で構成された。モンゴルでは、社会主義革命が起こった1921年以降を一般的に近代とみなすのだが、それ以降1992年の民主化まで、約70年聞社会主義国として歴史を刻んだ。その問、経済的にも文化的にもソ連の後押しを受け、「近代化Jが進められてきた。美術の分野においては、仏教の信仰が禁じられ、チベット仏教の流れを汲む仏教美術の伝統が失われてしまい、そのかわりに美術学校が建てられ、ソ連の美術教師がやってきて油彩画の技術を教えた。戦後は、多くの留学生がソ連や他の社会主義国へと留学し、母国に西洋画の技法を持ち込んだ。作家たちは、優れた美術家と評価されると、主に美術教師としての職が保障され、年に2度開催される展覧会で優秀作品と認められた作品は国に買い上げられた。(一見、作家たちは恵まれた環境にあったようだが、全く自由な表現が許されたわけではなく、抽象画やチンギス・ハーンといった民族的な画題は描くことができなかった。)この買い上げられた作品が、現在の近代美術館の所蔵品となっており、上述の展覧会の出品作品は、そのほんの一部に過ぎない。1992年の民主化によって、画家たちは自由を手にするが、経済状態の悪化に伴い、アップリケ作品についての考察一一-514-
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