それまで行われていた国の芸術家や美術館に対する支援は著しく縮小された。ここ数年は、ょうやく資本主義経済が浸透し、食料や生活用品には事欠かないが、あいかわらず出版事情は悪く、美術書もわずかしかないため、国外の研究者は、モンゴル近代美術に関する情報をえることが難しい。美術史研究者については、他のアジア諸国と比べても著しく少なく、モンゴルの近現代美術に関する体系的研究は非常に立ち遅れた状態である。蔵品約800件の作品に関して、基礎的なデータを収集し(注4)、データベースを作成した。スケジュールの都合で、より多くの作例を集めることを優先し、l点1点については詳細にみることはできなかった。ここではデータベースの詳細を掲載することはできないが、特徴的な点のみあげておく。対象作品は、絵画のみに限定し、制作年については特に限定は設けなかった。−国立近代美術館(以下、近美と称す)近美所蔵の129作家443点であり、うち428点が油彩画である。制作年が1941年からけている。サイズの大きな作品が多く、一辺が2メートルを超える作品が、30点以上もある。他のアジア諸国では近代美術の大作が稀であることと比較してみると、こうした大作が作られ、現在まで保管されていることは、社会主義体制が残した遺産であろう。−芸術家組合(以下、組合と称す)芸術家組合の収蔵品は、134作家382点であり、うち油彩画が341,点である。比較的サイズ、の小さな作品が多い。近美と比べると、作品数の割に作家数が多く、組合員の作品をより幅広く収集したことがわかる。総じて、画題として特徴的であるのは、モンゴルの雄大な景色を描いた風景画と、人々が働いている工場や遊牧の様子や国家賞受勲者の肖像画など社会主義的な画題である。今回、収集した作例からは、今後様々な視点での研究が可能である。ソ連からの油彩画の受容と展開、モンゴルにおける社会主義リアリズム、モダニズムの探求、モンゴル画の影響など、他のアジア地域とは異なる近代化への歩みの中で、モンゴルの作家たちが、どのような表現を模索し、獲得していったのか、今後明らかにしていかなければならない。しかし、今回の調査では、この約800点の作品の中で、特異ともいえ2002年10月、筆者は約3週間の現地調査を行い、芸術家組合、国立近代美術館の所2002年までほぼそろっており、国主催の毎年の展覧会ごとに収蔵していたことを裏付
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