者、ホワイトカラー、遊牧民を表す3人の人物を中心に、手前の花や日月は描かれてはいるものの、背景には、ピルや工場が建ち並ぶ都市の風景であり、それに向かつて、車が走る道路が続いている。このような道路や工場などのモチーフは、社会主義がもたらす発展の象徴として使われており、より宣伝画としての傾向が強くなっている。この作品は、ツェルマーが刺繍家として固から賞を受けたことに感謝し、そのお礼としてl年がかりで制作したという。ツェルマーは、母親から裁縫の基礎を学び、刺繍家として制作するようになった。短期ではあるが、中国とドイツに留学した経験をもつ。一世代若い、ダヴァーフー、ウランチメグの夫妻の作品としては、1981年作の「現代の素晴らしさ」〔図4〕があげられる。この作品は、アップリケという伝統技法と、宇宙という現代的なテーマの不釣り合いの組み合わせが、不思議な魅力となっている。この作品の中心となるのは、二人の宇宙飛行士である。これは1981年に初めてモンゴル人飛行士がソ連の飛行士とともに宇宙に行ったことを記念して描かれたものである。この年の展覧会では、この画題が主要なテーマの一つであった。宇宙服に銀色の錦を用いることで、素材感を表現しようとする工夫がうかがわれる。この作品は、背景の描き方に遠近感がなく、より平面的な構成になっている。日月も描かれておらず、仏教絵画的な要素が薄められ、まるでミュージカルの舞台の一場面のようである。最後に、センゲツォヒオ、ツェレンフ一夫妻についても簡単に触れておく。ツェレンフ一作としては、やや小ぶりの3点、が確認されている。夫妻の名が共同で連なった作例は今のところ確認しておらず、制作が共同でなされたかどうかは明らかではない。革命50周年を記念して、革命の英雄を描いた「スフパートル」〔図5〕は、画中画の構図が用いられている。額縁や花びらの表現は、布の使い方が細かく、複雑な形で縁取っており、現存するアップリケ作品の中では、技術的に最も優れた作例である。こうして比較してみると、初期のアップリケ作品には仏教絵画の伝統が強く形式的であるが、それが次第に薄められ、ちょうど中国の新年画のような祝祭的なムードをもっ作品へと変化していく。アップリケ作品の制作は、固から注文を受ける場合もあれば、自主的に制作する場合もあったという。しかし、アップリケ作品に限らず、油彩画やモンゴル画でも同様であるが、自主的に制作する場合でも、それは国主催の展覧会でいい結果を目指すため、必然的に国が好むような画題を選択し、表現を工夫しているのである。
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