@ 古代ローマの私的地下墓所における図像主題の研究1970年代、このカタコンベについて詳細な研究調査を行ったローマ学派の考古学者3) 一一魂の同伴者ヘルメス像を中心に一一研究者:西南学院大学文学部専任講師山田1.はじめにローマに現存するキリスト教徒のカタコンベは、主に2世紀後半から5世紀初めまで地下の埋葬施設として使用され、墳墓を飾る数多くの壁画を今日に伝えている。カタコンベの多くは、当時のキリスト教共同体に帰属するいわゆる共同墓地であったが、一方で、おそらく一族や家族専用に使用されたと考えられる小規模な埋葬施設、いわゆる私的地下墓所の存在も確認されている(注1)。近年の研究成果によれば、共同墓地に描かれた図像主題が、特定の聖書主題や、異教性の少ない装飾図像を繰り返し使用しているのに対して、このような私的地下墓所では、比較的自由で独創的な図像選択が行われているという(注2)。それは、私的地下墓所が、共同墓地の壁画が縛られていた、いわゆる宗教的・教育的配慮といった抑制の圏外に存在していたためであると考えられる。従って、これら私的地下墓所を飾る壁画の図像主題は、これまで、共同墓地の図像研究では理解できなかった、古代末期のキリスト教徒のさらなる実像を明らかにする可能性を秘めている。今回、このような私的地下墓所の図像主題の中から、特に、近年新たに確認されたヘルメス像およびその関連図像に注目し、以下で見るように、ローマの三ヶ所の私的地下墓所内部で、壁画周辺部や地下墓所全体の地誌学的観察も合わせた現地調査を行った。この調査を通して、4世紀の私的地下墓所におけるキリスト教一般信徒と、その内部に見られる異教神ヘルメス像との関係を再検討すること、これが本研究の目的である。2.異教徒の墓のヘルメス像ーヴイピアのカタコンベ:アルコソリウムNR.1 (注初めに、今日、キリスト教カタコンベの中に存在しながらも、明らかに異教徒の墓に描かれたヘルメス像の作例について取り上げる。これは、旧アッピア街道沿いのカタコンベ群のひとつで、一般にヴィピアのカタコンベ(注4)と呼ばれる地下墓所に存在するものである。フェルーアによれば、このカタコンベは、元来、この一帯に近接して存在していた異順538
元のページ ../index.html#548