岡美術館蔵)と比較すると、「花井孔雀図jが尾羽の描写に金泥や緑の筆線を多用し、複数の題材を華麗な肺彩により表すのに対して「老松孔雀図」では、孔雀の尾羽に墨線を多く用い金泥線を添え、からだの肺彩を墨の語調に接近させる。「嘉永英丑秋睡画印Jの干支印、「秋晦jの行書体落款を有する。土壌と岩を配し、蒲公英の花・菅と葉、笹、椿の花葉、白花をつける梅樹、右足で立ち左足をあげて雄を見上げる雌の金鶏鳥、見返って雌を見る雄の金鶏鳥が描かれる。蒲公英、椿、梅という異なる季節の景物が混在しているが、ここでは四季を描くことにより吉祥性を付与するというより、画面の濃密な構成、華麗な賦彩を実現することを意図しているようである。金鶏鳥の描写もまた華麗で、とくに細織な毛描き、巧みな目、足の表現によって雌雄の一瞬の動きが把握されている。これに対し椿の葉、蒲公英の葉は一部に輪郭をとるほかはごく淡い色面に葉脈を書き添え、憧南田画風を示す。「安政乙卯秋晦画印Jの干支印、「秋瞳作jの行書体落款を有する。後足で立ち上がり空を見上げる雄の兎、岩のかげに身をおく雌の兎と、二頭の兎を描き、木賊、蓄積の花葉、岩、下草が描かれ、月は描かれず画面外にあることを暗示する。雄の兎では比較的あらししかし耳のうしろや脚にも毛描きをほどこし、まつげや鼻毛、爪を描写、目は墨と茶のほか、周囲に金泥を施す。一方雌の兎の毛描きはじつに細般をきわめ、目は朱の詰調のみで表す。以上示した、弘化丙午の「老松孔雀図J、嘉永英丑の「金鶏鳥図」、安政乙卯の「双兎図j三作例にあらわれた特質を、その他の干支印作品についても検討した結果は[表]に示すとおりとなった。これにより弘化・嘉永・安政年間における秋障の干支印作品群の特質について、第一に落款の書体について、弘化年間には楢書体、嘉永・安政年間には行書体の落款を用いる傾向が認められること。第二に鳥獣の描写では毛描きに最も意を尽くすほか、目の周囲に墨や朱などで隈を強く施す、肢の爪や鳴、舌を強調して描くなどによって巧みに身体の実体感と捧猛さとを表現すること。第三に、とくに弘化年間を中心に、着色画においても墨画に接近した描法を示すこと。第四に、一部の作例については、鳥獣とともに描きこまれた景物に四季の混在が見られること。以上の点を指摘したい。② 「金鶏鳥図」〔図2〕嘉永六(1853)年、47歳、神奈川県立歴史博物館蔵③ 「双兎図」〔図3〕安政二(1855)年、49歳、出光美術館蔵-55
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