鹿島美術研究 年報第21号別冊(2004)
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1. 2003年度助成I.「美術に関する調査研究の助成」研究報告① イタリア中世板絵の金地一般的にイタリア中世•初期ルネサンスの板絵では、厚い石膏の地塗りの上に軟ら―下層にボーロのない金地研究者:東京芸術大学大学院非常勤講師大竹秀実はじめに金箔の施されたキリスト教の板絵は、モザイクやエマイユなど教会堂内の他の美術品を模倣して作られるようになったと言われるが、中世の初め、板絵画家や写本装飾家が金銀細工師と近い距離にあり、金、銀、その他の金属や宝石などの組み合わせや使い分けに通じていた可能性がある。たとえば、10-13世紀のヘラクリウスの『ローマ人の顔料と技術について』(Decoloribus et artibus romanorum)や11-12世紀テオフィルスの『さまざまの技能について』(Scheduladiversarium atrium)(注1)には、絵画技法の他にガラスや陶器、金属や貴石の加工方法の記述が多く見られ、特に絵画技法に焦点をあてた14世紀末の画家チェンニーニの『絵画術の書』(fllibro dell'arte) (注2)とは異なり、未だ絵画が特に他の技術から独立した分野になっていなかったことが窺える。中世板絵の金地技法はどのようなものだったのか、これは現存する数少ない当時の作品の調査と当時の処方を記す手稿の研究により、断片的であるが理解することができる。下地の準備と金箔の色板絵の下地の石膏は、非常に滑らかに平らに削らなければならない。金箔は極めて薄いため、地にわずかでも凹凸があると金箔の表にそれが出てしまうからである。チェンニーニは第120章で、板刃や繋で「象牙かと見紛うほどきれいに」削るように述べている。テオフィルスは第1巻19章の中で、とくさ(asperella)と呼ばれる草を使って光沢が出るまで擦るようにと述べる。テオフィルスの処方では、金箔を施す前にボーロを塗布しないため、石膏地の表面はかなり平滑でなければならなかったはずである。-1-

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