注モティーフは、今日我々が考えている風景画と都市図という作品のジャンルを超えて理解される存在でもあったのである。17世紀オランダ美術における主題としての風景」(阿部純子訳)ネーデルラント絵画における「地誌」と「風景」をめぐ(1) K. van Mander, Het Schilder-Boeck, Haarlem, 1604 (New York, 1980), fol. 34. (2) 聖書や神話のー場面を描いた絵画も「風景画」と呼ばれる傾向があった。レーフラング「「絵は詩のごとくにあらず」「レンブラント、フェルメールとその時代』展図録、2000年、国立西洋美術館他、40頁。(3) 都市図と混同されやすい言葉に、都市景観図がある。一般的には都市景観図は、都市、または都市の部分の景観を、油彩、素描、版画においてひとつの視点から描いたもので、17世紀半ば以降に成立したと考えられている。Exh.cat., Opkomst en bloei van het Noordnederlandse stadsgezicht in de 17de eeuw, Amsterdam/Toronto, 1977, pp. 10-ll.本稿は17世紀前半に制作された作品に焦点をあてていることもあり、都市景観図の問題には触れないことにする。(4) 拙稿「戸外で素描する人ーヤーコプ・ファン・ライスダール作《ハールレムの眺め》(チューリッヒ美術館蔵)との関係を中心に一」『女子美術大学研究紀要第31号』2001年、29-38頁。戸外で素描する人の位置、姿勢、服装、同伴者(見物人)の有無、素描の対象等に特定の傾向がみられる。特に戸外で素描している人が何を描いているところか、という対象モティーフの選定にこの傾向が著しい。都市、地所(領地)、古代遺跡、古代彫刻、廃墟、滝、谷川などが好まれて素描されている。なお、「戸外で素描する人」のモティーフは個別の作品研究の中でこそ言及はされているが、これに関する包括的な研究はこれまでなされていない。(5) G. Braun & F. Hogenberg, Civitates orbis terrarum, 6 vols, Cologne, 1572-1617.日本における復刻版では、トゥール、モントレー、カベサオ、ラティスポーナ、ヴェローナ、マリエンブルク、リンツ、サンクトペルテンの各都市に戸外で素描する人のモティーフが認められる。ブラウン=ホーヘンベルフ『16世紀世界都市図集成」柏書房、1994年。(6) ブラウンは第三巻序文に「長く困難な旅なしではほとんど得られないような情報を獲得すること、これらに勝る愉しみがありえようか」と書いている。R.A.スケルトン『16世紀世界都市図集成解説』(長谷川孝治訳)、柏書房、1994年、19頁。(7) ただし、画家が現場に居合わせた場合にこのモティーフが用いられた、とはいえない。17世紀オランダの画家が冬季に戸外で素描をしていたことは確かである。Exh.cat., Holland Frozen in Time, The Hague, 2001-2002, p. 19.しかし現段階で筆者は冬景色の中で素描をする人の登場する作品を確認していない。このことからも、このモティーフに類型を認めることは妥当である。(8) この作品を、風景描写と地図制作の伝統の双方が影響を及ぼしあった好例とする指摘もある。幸福輝「世界地図から世界風景ヘって」『美の司祭と巫女西洋美術史論叢』1992年、中央公論美術出版、154頁。(9) 素描する人がカロであることにこれまで反論はだされていない。Exh.cat., Jacques Ca/lot 1592-1635, Nancy, 1992, pp. 363-365. (10) loc. cit. (11) 平面図とは別称プラッツ、又はプラン。狭義の地図を指す。理論上の垂直視点から描いた直線的な平面図で、純粋に測地学的である。スケルトン、前掲書、28頁。(12) S. Ampzing, Beschryvinge ende !of der stad Haerlem in Holland, Haarlem, 1628. -94 -
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