(punching)は、14世紀初めにフィレンツェやシエナで完成された技法であり、ボー(granulation)が使用され、キリストの光輪など金地に対して変化をつけたい部分には、円周を線刻で引いてその中に絵具で模様を描いた(注8)。大型の作品の場合、貴石を嵌め込むのも当時の特色と言える。光輪を埋め尽くすような複雑な刻印ロ普及の時期との一致は偶然ではないと考えられる。写本装飾の金箔押し《ロザーノの十字架上のキリスト》、《サルザーナの十字架上のキリスト》などの作品の様式や繊細な描線が写本を思わせること、スポレート大聖堂アルベルト・ソツィオ作の〈十字架上のキリスト》(1187年、サンティッシミ・ジョヴァンニ・エ・パオ口聖棠のために描かれた)とピサのサン・マッテーオ国立絵画館の《十字架上のキリストn.20〉(元サン・マッテーオ修道院所蔵、13世紀初めのピサ—ビザンティン画家)〔図4〕には石膏地の下に羊皮紙が貼られていることからも、これら初期の板絵に対する写本絵画の影響は無視できないものがある。また、テオフィルスは第1巻17章で、板にチーズ膠で皮を貼ることを通常の方法として述べている。中世の修道院では、写本装飾をする僧と板絵を描く僧が同一人物、あるいは少なくとも非常に近い関係にあったと推測される。よって羊皮紙への金箔の貼り方から、稿を調べてみた。ちなみに、《サルザーナの十字架上のキリスト》の金箔は、正確な形に切ってから石膏地の上に膠で貼られていたという(注9)。ヘラクリウスの書はおそらく初めて金箔を貼る処方を記したものであり、13世紀まで写本には金粉が使われていた(注10)。金箔を羊皮紙の上に直接一種の接着剤で貼る古典後期、カロリング朝、ロマネスクに特徴的な技法をK.P.ウイトリーは‘flatgilding'と呼ぶ(注11)。これにはアラビアゴム(acaciaarabica, acacia senegalなどの植物より採取)(注12)やイラン、北アフリカに育つ植物‘doremaammoniacum'に虫が刺した跡から噴出する‘gumammoniac'(イタリア語では‘gommaammoniaco') が使用された。また卵白(glair,clareaとも呼ばれる)やニンニクの汁は、腐敗させた方が接着力が高まることが知られており、砂糖の添加も粘着力を増加させることができた。そして顔料で色をつけると、白い羊皮紙の上に液を塗布した部分が見やすく(注13)、かつ金箔がはげても目立ちにくかった。テオフィルス、『ナポリ手稿(写本彩飾術)」、12世紀の『絵画の鍵』(MappaeClavicula,著者不詳)、ペテルス・ド・サ12-13世紀には単純な線による線刻模様(incision)、あるいは細かな点刻模様12-13世紀半ばの板絵に金箔を押す技法の手がかりが得られると考え、以下様々な手-3-
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