3.スリランカのパドマニデイ・シャンカニデイの図像脚を立て、膝に掌を置き、一方の手には蓮華の切花を執る。高い宝冠を被り、身体には豪華な装身其をまとい、顔の表情は口を引き締め、両目をむき出す、怠怒の形相である。頭部の背後には同心円状の嬰のある布飾りをつけている。そこで両像がパドマニデイ、シャンカニディとする図像的な特徴は両像の背後に表される蓮華、法螺貝であり、それぞれの下方から宝(財宝)の束が生じ、垂下している。こうした蓮華、法螺貝から宝が生じる表現は、アイラーヴァテーシュヴァラ寺院の楼門の作例や収蔵庫の作例にも観察され、またタミル地方のカーヴェーリーパーッカム出土のパドマニディ、シャンカニディ像(注9)にも見え、タミル地方の図像伝統であることが類推できる。アイラーヴァテーシュヴァラ寺院における3組のパドマニデイ、シャンカニディ像であるが、その配置に注目すると、外側楼門の入口、楼門内部の付柱、ムカマンダパの前面の統中に確認され、特にムカマンダパ前面の例は内側の楼門を通過し、寺院内部に入る際に視覚的に最初に目に入る位置に配され、外側の楼門の口組も同様に参拝者の動線を意識した配置となっており、さらにこれらの像が財宝・宝という象徴性を持つことからも、王朝の繁栄を意図した造形と言える。またこれらのパドマニデイ、シャンカニディが財宝神クベーラの脊属である点に注目すると、クベーラの異名である「ラージャラージャ(諸王の王)」や「ダナダ(施財者)」という形容はパドマニディ、シャンカニデイと相互補完の関係にあると言える(注10)。またこれらクベーラの異名は文字通り王権と直結するものとなり、その脊属としてのパドマ、シャンカニディ像はまさしく王の権威を宣揚するイメージに他ならない。またチョーラ朝の大規模寺院の造営が王に権力を付する意図の下に行われることからも、パドマニデイ、シャンカニディは王権と密接に結びつく造形と言えるであろう。以上、6世紀以降における南インドにおけるパドマ、シャンカニディ像の展開について考察した。次に南インドからスリランカヘの展開について、スリランカにおけるパドマ、シャンカニディ像と南インドとの関連を中心に考察してみたい。ここでは誌面の都合上、二、三の作例についてみていきたい。スリランカにおいてパドマ、シャンカニディ像は、通常、仏塔(ダーガバ)や宮殿の入口に左右に配されるスリランカに特有の石板(ガードストーン)(注11)の中に見出され、特にスリランカの古都アヌラーダプラに集中している(注12)。まず最も古様を呈す作例についてみてみたい。それはトゥーパラーマ仏培の参道の入口に配さ-178 -
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