⑳ 琉球漆芸の南伝性についてー一加飾技法「堆錦」と「捲胎」素地の観点より―研究者:那覇市市民文化部歴史資料室主任学芸員宮里正子1はじめに琉球漆芸は、中国や日本さらに東南アジア諸国からの影響を受けながら、商度な技術と民族特有の感性で、特色ある「漆の芸術」の世界を確立した。その意匠は、政治や交易との関わりがきわめて大きい。対中国へは皇帝を象徴する龍や鳳凰を、対日本へは、武家社会が憧憬した中国の風景や故事に因んだ意匠が展開した。また、技術においては中国や日本の技法を大きく取り込み巧みにアレンジした。さらに、南方諸国(東南アジア)との交易の歴史も古く、気象条件の類似するこれらの地域の漆芸技法にも共通性が窺える。本調査では、南方諸国との関連が考察される琉球漆芸の加飾技法「堆錦」と素地構造「捲胎」の観点から製作地の現況や記録を伴う資料の調査を行った。実施した調査は主に次の4調査である。1)平成2年から継続している、ミャンマーやタイを中心とした東南アジア地域の製作現況調査(注l)、2)平成8年に美術館連絡協議会の協力派遣で行った調査を基にオランダ国立民族博物館のインドネシア及び琉球漆器の再調査(注2)、3)台湾の近代沖縄の堆錦調査、4)北京・故宮博物院所蔵の琉球王国からの献上漆器の調査2アジアの漆芸漆芸は、数千年の歴史を有するアジア独特の工芸である。漆芸に使用される漆樹は、東アジアから東南アジアの大陸部に自生や栽培されている。漆樹の表皮を傷つけ滲出した液は、強力な接着力があり、防水性に優れた天然の途料である。さらに、色材の顔料を加えることにより、木や竹で成形された器物の表面を飾る色鮮やかな塗料となる。ウルシオールを主成分とする日本や中国、朝鮮半島の漆樹、ラッコールやチチオールが主成分の東南アジアの漆樹など色味や粘度などの違いはあるが、それぞれの地域で、民族の美意識や自然環境から生れた漆芸品の存在が確認できる。3琉球王国の漆芸沖縄県は琉球玉国として、かつて独自の独立国家を成立させていた。1372年中国明-206 -
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