鹿島美術研究 年報第21号別冊(2004)
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る。5調査概要ミャンマーは東南アジア漆器の原初的な形態が唯一残っている地域として、平成4かなり制約を受けている。しかし、このような政治状況が、近代国家になった他の東南アジア諸国と比較して、漆芸のような伝統的な技術が継続している要因にもなっている。ミャンマーに多く分布している漆は、ビルマウルシ(学名Melonorrhoeausutata wall) で、樹高20■30mに樹周3mはある大木である。V字に傷をつけ、竹を差し込み1週間ほど樹液を溜めて採集する。樹液は黒っぽく、粘りも強い。漆樹は、枯れるまで何年でも樹液を採り続けるので大木になる。漆器の素地は、節間が50■100cm程の竹を薄く割き、テープ上にして巻き上げたり、ヒゴ状にして編み上げて成形する〔図1〕〔図2〕。加飾には、タ・ユと称される立体的な技法が多用され、堆錦と酷似する。タ・ユの製作工程は、灰と漆を木槌で叩きながら混ぜ合わせ、餅状にする。次に木鰻を当てながら紐状に延ばし、器物に線文様を描きながら貼る〔図3〕。仕上げに金箔や朱漆を塗るが、さらに色ガラスなどを嵌めこんだりもする。その他の加飾技法として刀で彫った後に色漆を埋め込むキンマ塗りに近い技法や、マスキングによる箔絵などがある。ミャンマーでは、現在三カ所の主な漆器産地が確認できる。最も知られているのが、パガンでイラワジ川沿いの村である。パガンの周辺の11■兼ねた大型の漆器店は2軒だが、家内工房は多数ある。また、漆器は暮らしに息づいており、特に寺院供物具など信仰深い人々と深く関わっている〔図4〕。漆芸技術養成の国立漆学校もあり、国中から研修生を募っている。竹材の捲胎や編み上げの素地の他、パガン特産の馬の尻尾の素地もある。加飾は線刻と箔絵が主である。今回の調査では、素地の竹材が筏を組んでイラワジ川の上流の山から運ばれてきていることが確認できた〔図5〕。二つ日の産地は、マンダレーである。首都ヤンゴンに次ぐ大きな町である。金箔製作でも知られるが、大理石の仏像産地でもある。仏像に使われる加飾がタ・ユである。1)ミャンマーの漆芸調査年(1992)から継続的に調査に入っている。軍事国家であるために、人々の暮らしは13世紀の遺跡は世界遺産にも登録され、観光客が絶えない。観光客用の工房と店舗を-208 -

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