鹿島美術研究 年報第21号別冊(2004)
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方摺盆(内銀皿)」や「黒漆嵌螺細雲龍紋蓋椀J〔図15〕は精緻な螺釧技法である。また、「紅地堆彩漆山水紋擢盆(内銀皿)」〔図16〕は、マーブル状の練り込みや繊細な線などを堆錦で表している。故宮博物院の琉球漆器は、いずれも琉球王国の最商の漆芸技術で製作された名品であり、また歴史的な基準資料としても、高く評価される作品である。さらに、同館では捲胎素地の例として、シャム(タイ)からの献上品と考えられる螺釧漆器を確認することができた〔図17〕〔図18〕。故宮博物院の膨大な収蔵品からは、今後も貴重な資料が発見される可能性が十分に考えられる。6今後の目標と課題琉球漆芸研究において、これまで日本や中国との比較研究は比較的行われてきていた。しかし、かつての南方諸国である東南アジア地域の漆芸については、美術史的な調査や評価がなされておらず、そのため具体的な比較研究は行われてこなかった。筆者は浦添市美術館嘱託学芸員の平成2年から、タイを基点に東南アジア大陸部のタイ・チェンマイや山岳少数民族、ラオス、ヴェトナム、ミャンマーそして中国の雲南、四川省などで漆器製作や生活造形の観点から調査を行ってきた。しかし、いずれの地域も近代化が進むにつれ、漆に代わる材料の開発や林業の変貌などで、漆芸は廃れ壊滅状況に追い込まれつつある。また、裔温多湿の東南アジア地域は漆器の保存に適さず、時代の遡る漆器は少なく、時代を特定できる資料もほとんどない。そのため、民族資料の整理の確立したヨーロッパに保存されている資料を確認する必要がある。今後は急速に変貌する東南アジア地域の緊急調査とともに、オランダ国立博物館はじめ欧米の民族博物館の所蔵する記録を伴った資料の調査にも積極的に取り組みた本研究が、東南アジアまで含めた漆芸の体系化と、アジアの人々の暮しの中で育まれてきた、漆の美や機能性を見直し、次世代に継承させる一助となれば幸いである。紙面の都合で各調査館や地域について、概略の報告となったが、本調査の詳細な報告は適宜学会誌などに報告させていただく所存です。最後に本調査にご協力いただきました漆芸関係者や博物館に、深謝とお礼を申し上げます。し‘o-212 -

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