② プロレタリア美術運動の系譜ー一大月源二を中心として一研究者：市立小樽美術館学芸員星田七重治安維持法の対象となり、激しい弾圧を受けた「プロレタリア美術運動」は、ひとつのまとまった組織にみられがちであるが、1929年にPP（日本プロレタリア美術家同盟）として一本化するまでには、大きくわけて二つの源流があった（注1)。政治色の強いイデオロギー的な団体「AR」の系譜と、前衛的な作風から発展しタブローの形式を重んじた「造型」の系譜である。一つめのARとは、本論の中心となる小樽ゆかりの画家大月源二が加盟した「全日本無産者芸術連盟；ナップ」所属の「日本プロレタリア美術家同盟」を指す。ナップは設立当初から文学、美術、演劇、映画、音楽の各部門に分かれていたが、その美術部がのちに合流してppとなっていく。当時の画壇とは全く別に、社会主義文芸運動と密接な関係を結び、運動の一環として美術作品を制作していた。階級的な見地がはっきり現れた左翼出版物が活発に出されると、漫画、カット、さらにポスターや組合旗、マークの図案などのあたらしい創作の場が増え、一層労働者の闘争へと認識を深めていくことになる。これらの仕事で評価される柳瀬正夢は、美術家も自らが労働者階級になって、その欲求に即座にこたえようとよびかけ、周辺の画家に影響を与えていった。さらに遡るとこの系譜は初期社会主義思想に至り、既存の画壇のなかから発生したものではないことがわかる。むしろ労働者と密接した社会主義思想家の側面をあわせもっていた美術家たちであった。小樽出身の大月源二は東京美術学校卒業後、迷うことなくこのARに参加していった。いっぽう「造型」の系譜は、大正期前衛美術運動をになった画家たちが、自らのダダ的な活動を自己批判し、方向転換をはかっていった流れである。旧造型からプロレタリア美術のリーダー的存在になったのは矢部友衛、岡本唐貴である。「造型」は、生活意識の内的変化から、それまでのダダ的表現を徹底的に自己批判したうえで、弁証法的な発展を遂げた。したがってはじめからプロレタリア美術と直結していたわけでない。造型は1927年に「造型美術家協会」となってから、作風もテーマも変化し政治と芸術の結びつきについて、具体的な実践運動に着手しはじめた。生き生きとした人間像を制作の対象とし、「明る＜健康的で」を目標に絵画に明快さを求めていった。その後、絵画の内容にメッセージ性をこめ、形式を変えて行こうとして、プロレタリ1 プロレタリア美術運動の系譜-15-
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