⑳ 官窯タイプ鉤窯磁器の製作年代について研究者:大阪市立東洋陶磁美術館学芸課長出川哲朗はじめに唐時代から元時代にかけて、すなわち8世紀から14世紀にかけて、特に宋時代を頂点として、中国での陶磁器生産は著しい発展を遂げた。とりわけ河南省では耀朴l窯系、磁州窯系、鉤窯系、汝窯系など特色のある窯が相互に関連を持ちながら、多数築かれた。そのほか、浙江省の越窯や龍泉窯、江西省の景徳鎮窯、映西省の耀州窯などでも、優れた陶磁器生産が行われた。宋時代は中国陶磁の黄金時代であるといわれ、数々の名窯がうまれた。河南省では北宋官窯、汝窯、鈎窯など宮廷で使用される陶磁器のほか、映西省の耀J‘li窯に倣った作風の耀州窯系青姿や河北省の南部から河南省に広がる磁州窯系の磁器が焼成された。耀州窯系と磁州窯系の相関関係とともに、注目されるのが汝窯系と鈎窯系の関係である。河南省の諸窯ではこれら4つの窯系の製品に加え、黒釉姿や白磁を焼成した窯も多くあり、その相互の関連はきわめて複雑である。本論では河南省の生み出した独特の陶磁器である鉤窯を中心にその成立と鈎窯の生産年代、及び故宮博物院などに収蔵される宮廷用の官窯タイプ鈎窯磁器の制作年代に焦点をあてて、鈎窯の生産年代について考察する。宮廷用の鉤窯の生産年代についてはこれまで、北宋代説を主力とし、その他、金代、元代、明代と諸説あり議論の的となっていた。1鈎窯の創始年代鈎窯の研究はこれまでもっぱら伝世品を中心にさまざまな意見が述べられてきた。鉤窯については現在も不明な点が多く、これまで、総合的な研究はほとんどおこなわれていない。1986年に汝窯の窯址が発見されたころから、鉤窯についても関じが高まってきた。中国での鉤窯研究は1985年の古陶姿学会ころから少しずつはじまった。中国国内では陳万里、叶詰民らによって、河南省内で窯址の発掘調査が進められてきた。鉤窯の編年的研究に関してはこの10年議論が起こってきているが、北京大学などによる新たな考古学的調査により、鈎窯の創始年代は北宋末期と明らかにされつつある。鉤窯の関心は創始年代、編年と汝窯、耀J‘卜l窯系、磁州窯系とのかかわり、そして伝世品の鉤窯の年代問題に集中している。宮廷になどに保存される鈎窯の花盆、鉢、尊形瓶などは天青釉、天藍釉、月白釉、紫紅釉などの釉色がすばらしく、また高台裏に1から10までの番号があり、特殊なも-253 -
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