しヽぎょう⑮ ジャポニスム流行下のフランスにおける日本陶器の受容とアーレンス商会第1節フランス人の趣味の変化19世紀以前のフランスでは、主に王侯貴族たちによって、日本の磁器が好んで収集研究者:福井大学教育地域科学部専任講師今井祐子はじめにジャポニスムが流行した時代のフランスでは、愛好家によって比較的規模の大きな日本陶磁器コレクションが形成されたが、当時のコレクションに関する目録を確認すると、それらのコレクション中には、それまでのフランスで人気の高かった磁器に代わって陶器が数多く収集されており、また数ある日本陶器の器種の中でも、茶道具(茶碗・茶入・香合など)が好んで集められていたことが分かる(注1)。また、これまでに開催されたジャポニスム関連の展覧会における展示作品に見るように、同時代のフランスで活躍した作陶家たちは、日本陶器に特有の造形表現から創作上のインスピレーションを得た陶器を挙って制作しており、その中には日本の茶陶に酷似したものも含まれている。本報告は、日本陶器に特有の美的価値、換言すれば、日本陶器に見る簡素な美、偶発的な美、個性的な美といったものが、ジャポニスムの時代になって初めてフランス人に見出されていった事実に注目し、そこに見る異形の美の受容を促した組織や人物の働きを検証したものである。されており、その白さ、堅牢さ、透明感などが宝石のようだと言って珍重されていた(注2)。その後しばらくの間、柿右衛門様式の日本磁器を模倣した作品が製作されるなどして、フランスでは日本陶磁器と言えば磁器を指すものという認識が強かったようであるが、日本陶磁器に関するフランス人の趣味は、1854年の日本の開国とそれに続く1858年の日仏修好通商条約の締結後、すなわちジャポニスム(日本趣味)が流行する時代になると、大きく様変わりしていく。19世紀後半に日本陶磁器を数多く集めたフランスの収集家たちは、種類豊富な陶磁器を集める中で、粗野だけれども温かみのある簡素な美を備えた陶器をとりわけ好むようになったのである。またそうした状況は、明治前期に日本から盛んに輸出されていた華美な装飾陶磁器が西洋諸国で高い人気を集めていた事実に照らして考えると、他の西洋諸国とは異なって、簡素な陶器ないし古陶を愛でるフランス人の特異な趣味が認められて興味深い。その契機となったものとしては、1878年パリ万国博覧会の際に、トロカデロ宮殿で開催された美術展内で実現した日本の古陶磁の展示が注目される(注3)。しかし、この一時的な展示-263 -
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