2.運動選手像の意味全10点のうち、7点の人物が槍を持ち、2点が円盤、そして1点のみボクサーの手革計6点あるが、そのうち髭を蓄えた人物は、このボクサーのみである。槍投げや円盤アテネにおける運動競技会の創設が運動選手墓碑の成立に影響を与え、その結果、具体的な競技種目を行う人物像が墓碑に表現されたとなると、その運動選手像は、競技会における実際の勝者なのか、という疑問が湧いてくることだろう。筆者の見解は否である。その何よりの理由は、取り上げられる競技種目が極端に限られているためである。具体的な種目に関連するアトリビュートを手にする競技者像、を巻いている。つまり、表現は圧倒的に槍投げ選手に偏っているのである。しかし、「パナテナイアのアンフォラ」の図が伝えるように、実際の競技会では、通常の徒競走や武具を着けた状態での徒競走、戦車競走、レスリングなど、多くの種日が競われている。また、これら競技者像のうち、ボクサーを表した1点以外、全てが髭のない青年であることも、墓碑図像が実際の勝者を表したものではない理由として挙げることが出来る。競技者の墓碑図像のうち、頭部が残っており、髭の有無を判断できる作例が合投げ選手はいずれも無蹟である。もし運動選手というモチーフが、競技における勝者を表すためのものであったならば、壮年男性の図像ももっと多いはずであり、オ倉投げや円盤投げ以外の種目を行う青年像も存在して然るべきであろう。以上の理由から、墓碑に表された連動選手像は競技会における実際の勝者を意味しないとみるのが妥当であろう。しかし、それならば何を意味しているのだろうか。その答えは、やはり競技種目に注目することから見出せるだろう。槍投げと円盤投げは、実際の競技会ではペンタトロン(五種競技)の一つとして行われる種目であり、単独での開催はなかった。つまり墓碑に表された青年は、いずれもペンタトロンの選手ということになる。ペンタトロンで競われた種目には、この二種の他、徒競走、走り幅跳び、そしてレスリングが含まれていた。このうち徒競走とレスリングは単独でも行われた。従って、ペンタトロン選手であることを表すには、槍投げか円盤投げ、あるいは走り幅跳びをする姿が適切であり、これら三種目のうち一種目でもあれば、その競技者がペンタトロンの選手であることがわかるのである。実際、僅かの例外を除き、ペンタトロンの勝者に与えられたパナテナイアのアンフォラには、この三種目しか描いていない。また、三種目のうちの一、二種目のみを描いた作例も少なくない(注11)。さて、ここで「墓碑の運動選手像は何を意味しているのか」という最初の問いに戻-315 -
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