8つのグループが現れるが、その数は洗礼堂の壁面の数や発掘された槽の外縁部の83.玄関の間中央にはキリストの洗礼を想起させる彫像3体、すなわち槽に水を注ぎ込む金の羊の像を中央にその右に救世主、左に洗礼者ヨハネの像が置かれていた。これは「見よ、世の罪を取り除く神の子羊。」(ヨハネ書、1 • 29)という洗礼者ヨハネの言葉を喚起させるものである。そして残りの部分に7つの銀製の鹿が置かれ、そこからも水が注がれていた。これらの鹿は詩篇42篇の言葉「神よ、しかが谷川を慕いあえぐように、わが魂もあなたを慕いあえぐ。」を想起させる。ヨルダン川でのキリストの洗礼に倣い、初期のキリスト教文書であるデイダケーが洗礼について述べた個所では「生きている水」、川の流水のような水が洗礼にば必要と記されていることからも(注6)、彫像から槽に注がれる水は少なくとも洗礼の典礼の際には、同時に途切れることなく流れていたと思われる。最初の3体を1グループとみなし、残りの7頭の鹿をそれぞれ独立して考えると、つの凹部に一致する。これら像の配置は、常に問題になるが、多くの研究者がこれら8グループの彫像は外縁部の凹凸に対応して、等間隔で配されたと考えている〔図3〕。これらの装飾はブラントの発掘においても発見されず、教皇ヒラルス(在461-468)が改めて洗礼槽の装飾を部分的にやり直しており、金のランプと水を注ぐ3頭の銀の鹿像を奉献しているので、410年のゴート王アラリクスによるローマ略奪の際などに彫像が取り去れられた可能性もある。この玄関の間は、2つのアプスを持つが、立派な2本の紫斑岩の円柱が立つ南側の扉〔図4〕から入って右の東側アプスには、現在も古代的なモティーフを用いたモザイク装飾が残っている。濃青色を背景に生命の象徴であるアカントスが、下部中央の株から渦巻く葉を伸ばす様を緑と金による優美な色使いのテッセラで描いている〔図5〕。アプス上部では、4羽の鳩が中央の羊の方を向いており、その下に小さな宝石飾りが施された十字架が6つ、ペンダントトップのように連なって吊るされている〔図6〕。渦巻きながら繁茂し展開するアカントスというキリスト教以前から頻繁に用いられたモティーフを地に、十字架や神の子羊、使徒や善き魂を持つ信徒を象徴する鳩が上部を占め、神の恩寵の下、生命が緑豊かに反映する様を表しているといえよう。そしてアカントスの株から上部へ垂直に伸びる太い茎は、上部中央の神の子羊に連なる生命の木をも表象していよう。それに対して、向かい側のアプスにはモザイク装飾は現存しないが、チャッコニオの素描〔図7〕にもあるように、かつてはモザイクで、-339 -
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