鹿島美術研究 年報第21号別冊(2004)
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6.サン・ヴェナンツィオ礼拝堂をオリーヴと思われる小枝をくわえた鳩や孔雀、鶉、オウムなどが埋めている。下のルネット型の2面の側壁には窓の両脇に1人ずつ、四福音書記者が開いた福音書を手にして、ニンブスをつけた姿で立っている。各々の頭上には、それぞれのシンボルの動物が雲から顔を出して描かれている。ここでは、神の子羊を中心に鳥たちが散りばめられ、神の事績を記録し、伝える福音書記者たちが彼らの頭上に展開する楽園的情景の証人となっているといえよう。一方、福音書記者礼拝棠においては、子羊の区画を中心に、8区画に分かれ、中央から花輪がたわんで対角線上の装飾帯をはさんで連なっている。金の地色が輝くそれぞれの区画には、果物のあふれるカンタロスをはさんで向かい合う1組の鳥たちが緑地を暗示する緑色のモザイクの上に配されている。ここでは鶉、鳩、オウム、鴨が2組ずつ選ばれている。これらの鳥たちは、古代の世界観を反映し、それぞれ地、空、火、水といった世界を形成する四大元素を象徴しているとマッキーは考えている。四大元素からなる世界を創造し、四季の植物冠が象徴する時を支配する神の子羊が中央に君臨しているのである。神の領域を表象する金地のモザイクの中で、花が咲き、実がなり、生き物たちは調和した世界で憩うのである。洗礼によって、受洗者もその神の恩寵に与るのである。ダルマティア出身の教皇ヨハネ4世(在640-642)は、異民族の侵攻が激しいダルマティアから運んできた聖ウェナンティウスをはじめとする聖人や殉教者の聖遺物を安置しようと洗礼棠の南東に隣接してサン・ヴェナンツイオ礼拝堂を奉献した。つまり、この建築は殉教者礼拝堂として建てられたのである。建物の完成と装飾については、次の教皇テオドロス1世(在642-649)に持ち越された。金地のアプスには〔図l幻、2天使に挟まれ雲の中に右手を上げた半身像のキリストが現れる。下には、オランスの姿の青い衣姿の聖母が立っている。その脇には向かって右にペテロ、左にパウロが立つ。前者は2本の鍵、教会の旗手として十字架杖を持ち、後者は福音書を持つ。彼らの外側右に洗礼者ヨハネ、左に福音書記者ヨハネがここでも対となり、その外側に共にサローナ司教であるドムヌスを右に、ウェナンティウスを左に配している。これまでの人物たちは皆ニンブスをつけているが、一番外側に立つこの礼拝堂の建造に関わった2人の教皇、右端のヨハネ4世と左端のテオドロスにはニンブスがついていない。ヨハネ4世は本を手にし、テオドロスは教会のモデルを衣で隠した手で捧げ持っている。外側の4人はこの礼拝棠を奉献した側と奉献-342 -

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