ー焼香と柄香炉について柄香炉とば焼香用の仏具で、一般に供養の具として知られている。供養とは供給資養の意味で、仏法僧の三宝および父母・師長・亡者などに対して香や花、飲食、燃灯など様々な供養物を献じることをいう。焼香も供養物の一で、供養の際に欠かせないもっとも基本的かつ重要なものであった。それゆえ、経典中に供養に関する記事を求めれば、焼香の記事に行き当たることも多いのである。ところで、『大毘慮遮那成佛経疏』すなわち『大日経疏』巻第八(唐・一行記)(注4)には、焼香の意味を次のように記している。燒香是遍至法界義。如天樹王開敷時。香氣逆風順風自然遍布。菩提香亦爾。随一一功徳。即為慧火所焚。解脱風所吹。随悲願力。自在而韓普黒一切。故日燒香。(傍点筆者、以下同様)すなわち、焼香とは遍く法界に至るという意味で、たとえば天の樹王が開敷する時のように、その香気が自然に遍布し、普く一切に薫ずるという。つまり焼香とは「遍至法界」、すなわち香気や香煙が遍く法界に行きわたるという意味をもっていたことが知られる。このことは他の経典にもしばしば記され、たとえば『金光明経』巻第二には「是諸人王手摯香櫨。供養経時其香遍布。於一念頃遍至之キ夫土皿界。」(注5)とあり、香気・香煙が三千大千世界に至るとされている。また『法華経』巻第互の分別功徳品には「衆費妙香燻、焼無債之香、自然悉周遍、供養諸世尊」(注6)とあり、香気・香煙が自然に悉く周遍することを記している。さらに『観佛三昧海経』巻第十には「若凡夫人欲供養者。手撃香櫨執華供養。(中略)願此華香満十方界。供養一切佛化佛井菩薩無敷磐聞衆。」(注7)とあり、ここでは願文の中で華香が十方界に満ちることが祈願されている。以上から焼香の特徴は、その香気・香煙が□千大千世界や十方界などの法界へと遍<至ることによって、法界のあらゆる仏菩薩を供養できるという点にあったと解されよう。こうした焼香の特徴を踏まえた上で次に柄香炉の意味を考えていきたい。柄香炉に関する概説書等をひもとくと、柄香炉は香供養する時に手に持つものと漠然と記されるものもあれば、より具体的に、仏や菩薩などを礼拝する時に持つもの(注8)、または密教の修法においては啓白する時に持つもの(注9)と記されたものもある。これらの説明はいずれも柄香炉の説明としてもちろん誤りではないが、経典・経論中にみえるもっとも顕著な香炉の使用法を見逃してしているようである。ここでは、次にあげる香炉の使用例の多いことを指摘しておきたい。-349 -
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