2.扮装写生する顔の細部の描写に注目し、まさに観方ならではの切り口で編集されている。また解説には、個々の画家の作画期や画風の特徴を当時の浮世絵研究書（注13)から参酌し、さらに観方の解釈も加えて述べている。画家伊東深水からは、「（前略）構図、描線、人の形、作者を知るには、それが備わっていないと解らぬものだとは思うが、顔は、その中でも特に大切な部分である（中略）世相の推移を顔で読むといったが、岩佐勝重の顔から、懐月棠安度、師宣あたりを経て、（中略）英泉、国安となってくると宛も一編の徳川時代史を読む思いがする」との序文を得ているように、時代の変化を言葉より目に見える形で示そうとする、画家的発想の浮世絵研究といえよう。このころの浮世絵をめぐる日本の情勢では、幕末から明治初期にかけて浮世絵の海外流出が見られた後、明冶中後期に日本での浮世絵覚醒が起こり蒐集家および研究者が増加し、大正期には、美術史における位置付けや様式論など掘り下げた研究や日本浮世絵協会などの組織的な研究機関が発足した。吉川がこの本を発表した昭和のはじめには、浮世絵による江戸趣味・江戸風俗ブームが巻き起こった時期であった（注14)。浮世絵へのさまざまなアプローチが広がる中で、吉川の浮世絵研究は、京都・東京の日本画家、洋画家からも注目され、昭和7年東京府美術館で開催された「第二回浮世絵総合大展覧会」（主催東京浮世絵協会会長笹川臨風、顧問鏑木清方、岡田三郎助）で賛助会員として4点出品（小林逸翁、木村斯光、根津嘉一郎、市川左園次、伊東深水の出品も確認できる）依頼があり、昭和13年の銀座美術日本社発行の「古今東西浮世絵数寄者穂番附Jには、竹内栖鳳が小結にランクされている中で、菊池契月、棠本印象と並んで前頭に位置付けられていることなどからも伺える。この他、江戸後期の異色画家、祇園井特についての研究では、井特の美人画の模写を何度も試みながら井特と同じ視線で人物描写の特質に注目し、井特を論じている（注15)。吉川は、画家としてのオ覚を発揮しつつ、数ある浮世絵研究に一石を投じている。大正12年に吉川が設立した「故実研究会」は、第二次大戦後もしばらく続いていたが、その活動の中心は扮装写生会とコレクションの公開であった。扮装には、コレクションの近世小袖も惜しみなく使用され、吉川が浮世絵で得た知識を大いに活かして髪型や装身具にも細心の考証が加えられた。これに参加した上村松園、伊藤小披らが熱心に参加する様子の記録がある（注4)。歴史人物画を描く画家の画塾では、人物写生が中心であるが、時には時代衣装に身を旦んだモデルを写生する研究会が行われたように、目に見える形で時代を表現することが画家にとって重要なことであった。特に吉川の扮装写生会は、江戸時代女性風俗がテーマの時には、烏居派や懐月堂派な-28-
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