鹿島美術研究 年報第21号別冊(2004)
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⑳ 第二次大戦前後の日本におけるルネサンス言説1939年3月)、渡辺一夫による翻訳・フランソワ・ラブレー『ガルガンチュワとパン研究者:東京藝術大学非常勤講師谷口英理はじめに第二次大戦下から敗戦直後の日本では、文学・思想・歴史学等のさまざまな領域で「ルネサンス」が重要なトピックとなっていた。たとえば栗原幸夫は「ルネッサンスは一種の流行であった」(注1)と述べている。しかし実際のところ、この時期のルネサンスをめぐる言説はいまだ明確になっているとは言い難い。これまで、林達夫『文芸復興』(小山書店、1933年11月)、羽仁五郎『ミケルアンヂェロ』(岩波書店、タグリュエル第一之書』(白水社、1943年1月)、花田清輝『復興期の精神』(我観社、1946年10月)等のある程度著名なルネサンス関連文献については論じられてきたが(注2)、それ以外について言及されることはほとんどなかった。なかでも当時の美術界でルネサンスがどのように語られていたのかという点に関してはほとんど考察されていない。本研究では、美術雑誌の写真図版や特集記事の掲載状況、関連書籍の刊行状況を調査し、その結果をふまえて美術界を中心とした第二次大戦前後の日本におけるルネサンスをめぐる言説について検証した。調査の中心は第二次大戦下だが、本報告書の最後で戦時下の言説が戦後にどのように接続していくのかという点について展望を示した。美術雑誌と刊行書籍に関する調査まず、写真複製による作品図版集を含めた特集記事を中心に戦時下の美術雑誌の調査を行った。『みづゑ』や『アトリエ』等の代表的な美術雑誌を通覧すると、1930年代末ごろから誌面の印象が変化することに気がつく。美術受容を考える上で作品の写真複製図版は文章によるテキスト以上に重要な要素だが、この頃から雑誌に掲載された作品図版や表紙に、それまで大半を占めていたフランス近現代美術および日本の同時代美術ではなく、ギリシア・ローマ美術、西洋中世美術、ルネサンス美術、バロック美術等が採用されるようになるのだ。とりわけルネサンス美術は関心を集めていた。ルネサンス美術関連の作品図版集の掲載は1938年頃から増加する。以降、多い場合は数十頁にも及ぶ写真版・グラビア版・オフセット版の関連図版集が、終戦時までの美術ジャーナリズムとルネサンス-390 -

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