約30年間にわたって間を置きながら手がけられた。掲載された挿絵の枚数は、題字横第46回〕。ケント紙やインクを使用するようになったことと、技法上の新たな試みは、されたビルの内部は、塗り残したケント紙の地の白色で表し、建物の外の暗い中を歩く人物や自動車のおおよその形を墨のベタ塗りでとらえ、その部分の墨を削り、顕わになったケント紙の地の白い線によって各々の形を浮かび上がらせている。さらに、「白い魔魚」で小磯が新たに試みた別の技法は、インクを吹き付けて表現する方法である。はじめにものの形を描写し、光を反射している箇所として白く残す部分を切り抜いた別の紙などで覆った上で、影になる部分にのみインクが吹き付けられる〔図27戦後の挿絵の流行に反応した結果である。小磯は、この吹きつけの技法を好んで使ったが、小説の内容に合わせて技法を選んでおり、教育現場の問題をテーマに扱った「人間の壁」(1957年、石川達三著朝日新聞)では、この吹き付けの技法は使用していない。吹き付けの技法が醸し出す雰囲気はたしかにやや抒情的であり、小説の内容によってはそぐわないようである。「人間の壁Jは小学校の教塞や子供の姿や、国会闘争の場面が描かれた場面、日教組の運動の場面など、取材及び資料に基づく調査の窺える挿絵が興味深い。さらに技法に関して「積木の箱」(1967年、三浦綾子著、朝日新聞)は、吹きつけやベタ塗りに加え、スクリーントーンを多用している点で、イラストや漫画家の手法の引用がなされた作品である。スクリーントーンは、吹き付けの効果などを手軽に美しく表現できるものとして使い始めたのだろう〔図28第55回〕。「積木の箱」には、種々の模様のスクリーントーンを挿絵の中に使用し、洗練された効果があげられている。戸外の場面〔図29第56回〕、暗くなった戸外や人工照明に照らされた室内にいる人物〔図30、第186回、第288回〕など、複数のスクリーントーンを併用した表現は、優れた素描をなす小磯の的確な陰影把握に裏付けられている。この作品「積木の箱」以降、小磯による新聞連載小説の挿絵の仕事は確認されない。挿絵を手がける余裕がいよいよなくなった事が大きな要因であったと思われるが、経験と知識が無い状況のうちに始めた挿絵の仕事における最終段階として、「積木の箱」は、約30年間にわたって積み重ねた工夫と、様々な技法も試した結果、小磯にとって、新聞連載小説の挿絵に関する一応の満足を得ることができた作品であったと考えられる。むすびにかえて小磯良平の挿絵、とりわけ連続して多数の作例が確認される新聞連載小説の挿絵は、に描かれる小カットを除いて3442点である。これらの挿絵に関して掲載新聞のコピー-406 -
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