⑫ 舞楽面の基礎研究遺品の分布と形式分類__ー研究者:東京芸術大学非常勤講師村山(1) 問題提起と本研究の目的1点の舞楽面は、常に1つの楽曲と対応している。それゆえか、種類ごとの特徴や楽曲の意味の研究が先んじ、個別の作品研究については、いまだに多くの問題が残されている。筆者は拙稿(注1)において、舞楽面のうち陵王(以下「陵王」のように略記する)に注目し、竜の首の長さや髪際の形といった、特定部分の比較を通じて現存遺品の形式分類が可能であることを論じた。本研究では、陵王における研究成果を踏まえて、画像資料収集により、舞楽面研究の基礎資料を形成することを目的とした。結果として、各種の舞楽面における形式の異同を明らかにし、陵王の形式変遷の意義と舞楽面の伝承過程を研究するための基盤を築くことができたと考える。(2) 舞楽面の研究史舞楽面の学術研究の喘矢は、野間清六の『日本仮面史』(注2)と言ってよいだろう。野間氏は、舞楽の歴史の概観、曲目および仮面の紹介のみならず、制作技法や現存遺品にも触れ、以後の研究の基盤を築いた。同種の仮面における形状の比較に関しても、すでに陵王や散手、納曽利に「二つの型」があることを指摘していた。しかしまだ、限られた作例の中での比較研究であることは否めない。その後、毛利久(注3)や後藤淑(注4)などの先学により資料が増補され、田邊三郎助が現存遺品の分布状況を「舞楽面遺品一覧」として発表した(注5)。ほぼ同時期に、西川杏太郎が舞楽面の概説書を刊行し(注6)、後藤淑も、能面に先行する民俗仮面の研究の一環として、地方の舞楽面を多数紹介する(注7)。その中でも、田邊氏の、陵王の多様性に着目し、形式の変化と時代の推移との関連性に言及された論考は、注目すべき見解といえるだろう(注8)。その他の舞楽面については、散手、貴徳に2形式あるとする論(注9)や、口舞、抜頭にも異なる形式があるとする論(注10)が出されている。しかし、必ずしも具体的な作例比較を伴うものではない。あるいは、同じ種類の仮面を対象としながら、異なる分類結果が提示されるという例もある。比較対象となる作例が充実してきた今、個別作品の精査と基準を設けた上での綿密な分類が、課題として浮かび上がっていると言えよう。-435 -閑
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