ー一天地創造型マエスタスの誕生と瞬間的創造—⑬ 西欧中世における世界認識と創造主賛美図に関する図像学的研究研究者:東京大学大学院総合文化研究科博士課程固學院大学非常勤講師日本大学非常勤講師十二世紀ルネッサンスと呼ばれる時代、多くの天地創造図が春の芽吹きのようにいっせいに世に現れた。創世記、典礼書、詩篇や創世記注解など多様なテクストの挿絵として、天地創造場面が急増するのである。その多くはテクスト冒頭部を飾るイニシャル装飾だが、なかには創造主を中心とした円環構図に天地創造場面を描く、複雑な構成をもつ挿図もみられる。このような円形枠をもつタイプの図像をツァールテンはたマエスタス・ドミニの構造を併せもつことから〈「天地創造型Jマイェスタス像〉と命名した。「天地創造型マエスタス」の初期の例として、現在ジローナ大聖堂宝物館に所蔵されている〈天地創造の刺繍布〉があげられる〔図1〕。従来、刺繍布の円環構図は、同じく放射状の円形構造をもつヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂アトリウムの天蓋モザイクと比較されてきた。しかし、円天井という制約のため円環構図をとるだけのサン・マルコのモザイクとは異なり、刺繍布では万物に祝福を与えるパントクラトールが中央に描かれ、マエスタス・ドミニの構成をとっているのである。つまり刺繍布は、十二世紀以降、写本芸術において花開くことになる「天地創造型マエスタス」の形式をモニュメンタルな規模で先取りしているのである。刺繍布と同時期の創世記挿絵においては、イニシャル装飾が最も一般的である。創世記冒頭のINPRINCIPIO(はじめに)のIやINという文字の内部に、天地創造の六日間の物語が展開する。描写空間の大きさはまったく異なるが、順番どおりに物語が進む点では、『モーセ八書』などビザンティンの創世記写本でも同様である。どれも時間の流れに始点と終点がある、線的な描写である。一方、円形構図では物語の始点や終点を定めることができない。物語がどこで始まっても元に戻る、円環的な時間性を獲得している。Iイニシャルから円形構図への変化は描写空間の線から円への変化にとどまらず、物語の時系列を消滅させる効果をもつのである。序Zentralkomposition(円形構図)と呼び、また辻佐保子氏は、これが創造主を中心とし-446 -金沢百枝
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