1)『ヴェルダンの講話集』〔図3〕1100年頃、ムーズ河流域で作られたとされるこの写本の第一葉を飾るのが、天地線的な構図が主流であった時代に、なぜジローナの〈天地創造の刺繍布〉を含む天地創造型マエスタスでは、あえて円形構図が選択されたのだろうか。従来の構図を変える意義はなんだったのだろうか。本稿では、典型的な「天地創造型マエスタス」構図をもつ写本挿絵を中心に、マエスタス・ドミニ像が天地創造場面に移入された背景を模索しながら、創世記注釈などの思想史的背景を考察し、「天地創造型マエスタス」誕生の謎に迫りたい。1.「天地創造型マエスタス」はじめに「天地創造型マエスタス」とはなにか整理しておこう。ツァールテンは、車輪状の明確な円形枠をもつタイプと明確な円形枠をもたないタイプの二つに分類している〔表1〕。第一のタイプの方が年代的には古く、枠構造が厳密で、第二のタイプはイングランドでつくられた詩篇集で、比較的緩やかな枠組みをもっことを特徴とする。ツァールテンは円形の枠組に焦点を絞ったが、円の中心に創造主がすえられていることに着目したのが辻佐保子氏である。氏は「一0世紀末から一□世紀にかけての西ヨーロッパの聖書や福音脅の冒頭全ページ挿絵には、同じく「天地創造」を背景とした「ロゴス=創造主」の周辺に各種の球体や擬人像を配した構図がしばしば認められる」と述べ、その例としてブーローニュ・シュール・メール市立図書館蔵の福音書や『ポンメルスフェルデンの聖書』と並んで、ツァールテンの作例を紹介している。また、終末論的な文脈で円形概念図とマエスタス・ドミニについて論じたクーネルは、「創造の車輪型概念図(CreationRotae)」として、辻氏があげた作例のひとつとジローナの剌繍布をあげている。それでは実際に「天地創造型マエスタス」とはどのような構図を備えているのか、典型例をみていこう。創造の六日間を描く一頁大の挿図である。創造の六日間を擬人像によって車輪状の円環枠内に配し、中央には玉座のキリストが創造の七日目の擬人像(あるいはアダム)とともに描かれている。飾り縁と円環部の間には、四季の擬人像、四方の風と光と闇の擬人像が配されている。-447 -
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