鹿島美術研究 年報第21号別冊(2004)
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マエスタス・ドミニ2.天地創造型マエスタスの萌し一Iイニシャルとマエスタス・ドミニー2-1.マエスタス・ドミニの発展とイニシャル装飾2)『獅子公ハインリッビの福音書』〔図4〕車輪状の円環構造はないものの、天地創造の六日間の場面が、祝福を与えるキリストを含む中央のマンドルラを花弁のように取り囲む。四預言者や四つの生き物などが描かれ、マエスタス・ドミニ的な構造が最も明確に描出されている。3)『ライデン詩篇』〔図5〕聖王ルイの詩篇としても知られる。明確な円形枠はもたないものの、祝福のポーズをとるマンドルラ内のキリストを取り囲むように、天地創造の六日間が描かれたメダイヨンが配されている。第ニグループに属する他の詩篇集〔表1〕も、枠の形はそれぞれ異なるが、中央のキリストを取り囲むように配置されている点で共通している。天地創造の六日間の物語がおおよそ円環状に配置されている点では、最初にあげたジローナの刺繍布〔図l〕も天地創造型マエスタスの特徴を備えている。円形枠やマエスタス・ドミニの構造が明確でない作例でも、天地創造の場面が併置されているのが印象的である。黙示文学を霊感源として発展したといわれる「荘厳のキリスト」と呼ばれる図像は、九世紀前半、カロリング朝の写本挿絵において新たな展開をみせた。初期キリスト教時代には勝利門を飾っていた神の顕現場面は、トゥール派の聖書において福音書挿絵として登場することになるのである。マンドルラのなかのキリストは、王座や天球、虹に座し、左手で聖書を抱き、右手で祝福を与える。マエスタス・ドミニの図像が福音書冒頭の挿絵として大きな発展を遂げたという経緯は、「天地創造型マエスタス」の起源を検討するうえで重要である。マエスタス・ドミニの中央に描かれる祝福のキリスト像が、時代を経て、「天地創造型マエスタス」に組み込まれることになるからである。本節では、聖書挿絵の流れを追うことによって、福音書の冒頭を飾っていたマエスタス・ドミニ像が、いかにして創世記冒頭部のイニシャル装飾に描かれるようになったのか概観したい。カロリング期のマエスタス・ドミニ像は、福音書冒頭に描かれる場合がほとんどで、『ヴイヴィアンの聖書』のように、創世記冒頭のイニシャル装飾に挿入された半身像-448 -

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