プス以北の写本においてイタリア大型聖書と同時期か少し早く展開しているものもあるからである。しかし創世記に限定してみると、図像表現は不思議とローマ型創世記図像と共通している。カロリング期の創世記図像にはマンドルラ内で祝福のポーズをとるキリストの作例がないことから、創世記と祝福のキリストという組み合わせは、ローマ型創世記図像由来である可能性が指摘できるのである。次に、Iイニシャル装飾に描かれたマエスタス・ドミニ像を追いながら、ローマ型創世記図像がIイニシャルに与えた影響について考察したい。Iイニシャル装飾内の創造主の存在は、Iイニシャル装飾の分類のうえでも重要である。リーマンは、創造主の有無や配置によって1イニシャルを口群に分類している。は、ロマネスクの物語イニシャル装飾としては最初期のものである〔図2〕゜1の文字を構成する七つのメダイヨンのうち、最も上のメダイヨンには祝福を与える無髯で十字ニンブスのキリストが座す一方で、物語は最も下のメダイヨンから順番に上へ進む。ロゴス=キリストを取り囲む円形のマンドルラがメダイヨンにうまく代替されている点は注目に値する。さらに、先に触れた『ヴァインガルテンの聖書』〔図7〕では、Iの文字の内部をイタリア大型聖書由来の幾何学文様で区分しながら、最上部の円形枠内に無髯のキリストを配置する。この作例でも、イタリア大嬰聖書における円形マンドルラが、飾り模様にうまく適応しているのがわかる。ロゴス=キリストのすぐ下に二天使が配置されていることも、ローマ型創世記図像の影響を暗示しているように思われる。拙論において述べた通り、ローマ型創世記図像ならびに創造主賛美図像の図像群では、キリストを称賛する二天使がしばしば見受けられるからである。『ロッベスの聖書』同様Iの文字をメダイヨンで構成するタイプのイニシャル装飾は、いくつも製作された。それらの多くにロゴス=キリストの半身像が描かれているのである〔図8,9〕。イニシャル装飾に登場するロゴス=キリスト像は、1イニシャル装飾にとどまらない。フラウィウス・ヨセフス『アンティキターテス』挿絵や『サン・テュベールの聖響』〔図10〕のように、ムーズ河流域でつくられた多くのINイニシャル装飾にも、さらに半頁大の挿絵においても、円形枠から祝福を与えるキリスト像が描きこまれている(『スーヴィニーの聖書』『サン・ヴァレンティーノの聖書』『ミュンヘン詩篇』な2 -2. Iイニシャル内の創造主とローマ型創世記図像の影響1084年頃つくられたとされる『ロッベスの聖書』の創世記冒頭部の1イニシャル装飾-450 -
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