鹿島美術研究 年報第21号別冊(2004)
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ルテリウス『世界の舞台(上)」大西英文•長谷川孝治翻訳解説,神戸市外語大学外ルギー王立文化財研究所(IRPA)の図像資料及びベルギー王立図書館、プランタン・モレトゥス博物館の所蔵資料を対象に行なった調査の過程で明らかになった、鳥鰍図タイプの都市景観図とブリューゲル初期風景画とにおける人物モチーフを巡る類縁関係に焦点をあて、同地で収集した先行研究、関連文献史料を基に対象作品を取り巻く時代背景を明らかにしながら論じたい。そして、〈大風景画〉連作において従来等閑視されてきた添景人物の意味と機能を探ることで、16世紀フランドルの風景表現の展開における、本連作の歴史的意義について詳らかにされていない諸点を明らかにすることを試みる。1.オルテリウス『地球の舞台』にみるストア派の自然観図を統一的な判型に縮小して編集したことで、しばしば世界初の近代的地図帳と称される。のみならず、クーマン(注7)が指摘したように、『地球の舞台』の特色は、それが地図とテクストとが一体をなす、近代的で壮大な世界の記述という点にもあった。前述したように、『地球の舞台』(1579年版)において、他の地域図に先立って提示された世界全図〔図7〕には、キケロとセネカの著作からとられた引用文が付されていた。5つの引用文の日本語訳と出典は以下のとおりである(注8)。ものと映り得ようか。(キケロ『トウスクルムの荘対談集』4巻,17章37,邦訳はオ国学研究XXV1992 p. 35参照。)B:世界地図上部,左;人間は、この聖域の真ん中におまえが見る、地球と呼ばれるあの天球を守るという掟のもとに生まれてきた。(キケロ『国家について』第6巻・スキーピオーの夢,15章,邦訳は『キケロ選集8』岡道男訳,岩波書店,1999P. 163 参照。)c:世界地図上部,右;馬は人を運ぶために、牛は耕作のために、犬は狩と見張りのために誕生した。だが人間自身は宇宙について思索し宇宙を模倣するために誕生したのである。(キケロ『神々の本性について』2巻,14章37,邦訳は『キケロ選集11』山下太郎訳岩波書店2000P. 111参照。)D:世界地図下部,左;まあ、こんな、点のようなちっぽけなものを、沢山の種族同士が剣や火を交えて分け合っているのか。ああ、なんという可笑しなものか、人間ど1570年に発行されたオルテリウス『地球の舞台』は、各地域の利用可能な最良の地A:世界地図下部,中央;全世界の永遠無窮さを知る人に、人間の営みの何が偉大な-487 -

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