鹿島美術研究 年報第21号別冊(2004)
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⑲ 厳島図の成立と展開に関する研究1 厳島図の概況研究者:広島県立美術館主任学芸員知念はじめに厳島、天橋立、松島の日本三景のほか、和歌浦、富士・三保松原、近江八景など、著名な地方名所を組合せて屏風一双に描き分ける風俗図のジャンルが江戸時代初めに確立される。なかでも厳島については、これら海浜の景勝地に加えて吉野、鞍馬といった名所との組合せがみられ、また厳島のみで一双の遊楽図に展開されるなど、ことに豊富なヴァリエーションを展開させた画題として注目される。ここまでの作品調査、文献収集等により、関係作品の所在、その描写内容の確認等に一応のめどが立ったと思われる。よってまず本報告ではそれらのデータ集約を通じて、この画題の全体像を今一度明確にとらえなおすことを期したい。とくに厳島を軸にとらえた一双屏風の名所選択と、それにともなう主題性の問題について幾ばくかの考察を述べ、厳島図の成立と展開を俯廠するアプローチ構築を前進させておきたいと考えるものである。厳島を描く近世の屏風と襖について、現時点で知りえた作品一覧が〔厳島図障屏画一覧〕である(以下、一覧とよぶ)。これまでにこの種のリストとしては久野幸子氏による〔厳島と天橋立を描いた近世名所図屏風の作例〕がある(注l)。厳島を含まない作品5作例(リストのNo.23■27)を除外すると、総数22作例(同No.l■22)が数えられるリストであった。それからはや15年の経過をみたところで、今回の一覧では襖絵も範疇に入れたが、総数50作例の存在を確認するにいたった。ただし掲載刊行物がない市場作品、個人所蔵作品のデータは反映されていない。念のため、従来の22作例との重複について、一覧の〔※〕欄で久野氏のリストNo.との対応を示した。各作品の〔制作年代〕についてはまず、史料や画家の没年等から明らかである場合にその年号や世紀を示すこととした。それ以外の作例も先行研究のなかで言及されている場合が多いが、今回は論者が実見できた作品について目安となる世紀を()付きで表記するにとどめた。また作品の所蔵者は公表されている場合のみ表記した。その他は掲載刊行物を掲げて当該作品の画面参照に配慮したが、それらすべてについて現在の所蔵者を再確認で理-521 -

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