ただじっさいのところ、権力の誇示という目的とからんだ徹底した遊び的な華やかさの濱出には、それ相応のリスクを要したのかもしれない。《アウローラ》と牧歌劇の舞台さて、この「アウローラのカジーノ」のはたした機能一つまり〈演劇〉と〈狩り〉の場所という一についてはうえで言及した通りである。とすれば、理想郷アルカデイアに住む狩猟の民の物語である当時流行したジャンルの演劇、すなわち〈牧歌劇〉がここで上演されたと想像してみることは魅力的だろう(注8)。その代表作としてすでに評価を確立していたタッソの『アミンタ』、バッティスタ・グアリーニの『忠実なる牧人』らの作品の舞台は、いずれも屋外、たとえばフェッラーラ郊外ポー川の河岸や宮殿の中庭などを利用して設営されていた。そして、これらの物語はといえば、いずれも一時の誤解や混乱を経て、最後に〈時〉が真実を明らかにし、愛が勝利する、というおきまりの筋をもつ。さらに、ここではいずれも〈神託〉、すなわち太陽神アポロンの意思があらゆる登場人物の運命を支配していた。とりわけグワリーニ作品では、父親モンタノが息子シルヴィオとアマリッリの婚約を決定したのも、自分の息子をアマリッリと結婚させるべき、との神託にもとづいてのことであったし、その神託がゆえに、この女性を愛する主人公ミルティッ口は苦難を経験し、しかし最終的にはそのミルティッロがモンタノのもう一人の息子と判明してアマリッリと結ばれることで、ほんとうにこの神託が成就したこととなる、というように、〈神託〉が物語の筋そのものを決定する。とすればこれらは、牧歌的風景を描いたブリルの〈四季》やテンペスタの〈愛の勝利》のような作品ばかりか、「時」の移行とともにそれら全てを支配する太陽神アポロンがたち現れるというレー二の絵画にもいかにもふさわしい。リドルフォ・カンペッジの『フィラルミンド」(初版ボローニャ、1605年)そしてこのとき、この「アウローラのカジーノ」という舞台のためのもっとも理想的な上演作品は、当時「第四の牧歌劇」と評されたリドルフォ・カンペッジの『フィラルミンド』(初版ボローニャ、1605年)〔図8〕ではなかったか(注9)。主人公フィラルミンドとその婚約者ラウリンダをめぐるこの運命の物語は、おおむね『忠実なる牧人』を下敷きにしてつくられ、同じように〈時〉により真実が明かされ、愛が勝利する、というものであった(注10)。しかも強調すべきことに、ここでアポロンの神託はさらに具体的となり、しかも筋そのものにたいする影響力をつよめている。た-51 -
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