鹿島美術研究 年報第21号別冊(2004)
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これまで紹介した文献を考慮すると、二つのモラッカァの中に見られる作品に上記の技法を認めることができるように思えるが、とりわけ、以下の技法は顕著である。砂子散らし)の使用例について文献に見られる箔の大きさを示すと思われる用語が、具体的にそれぞれどの程度の大きさであったのか不明であることから、それらの名称を特定することは不可能であるが、様々な大きさの砂子散らしが確認される。この技法は、書が書かれる前に施されるということに留意すべきであろう。[図1] の使用例についてこの技法は、それが施される直前に紙葉上に響水引きをする必要が無いので、書が書かれた後の紙葉上にも実施できるのが特徴である。しかも、ブラシ状の道具によってふるいの目を通して弾き飛ばされた金泥はおおむね大小の円形状に付着し、筒から蒔かれた不規則な形の金箔とは異なった様子をしている。ほとんどの場合、完成された書の作品の表面に施されているので、書かれた文字の上に金泥がほぱ円形の粒状に盛り上がって固着しているのが確認される。[図2]多くの書の作品の紙葉の表面には、その密度に差異があるとは言え、光のあたり具合によってのみ漸く確認できるほど微細な金の粒子が一面に付着している。金箔を砕いた程度では到底生じ得ないほど極く微小な粒子だけの一様な広がりは、砂子散らしでもパラ掛けによるものでもないように思える。恐らく、書を書く前に滲み止めの膠水を紙面に塗布する際に(注19)、少量の金泥を膠水に滉ぜていたのではないかと思われる。このような方法による技法を示す記述はこれまでどの文献においても確認されていない。しかし、先に説明した金箔の大きさを表していると思われる言葉の中で最も小さい粒子を示していると推測されるゴバール(埃)は、砂子散らしやパラ掛けの方法ではなく上記の方法、即ち金泥を膠水に混ぜて引き染めする方法で施されていた可能性を考慮すべきかと考える。この技法による作例は、光の反射具合によってのみ漸く確認できる程度なので、残念ながらその作例の写真を示すことができなかった。以上の技法の他にも、金泥を用いた技法として金泥画があるが、絵画的技法なので、ここでは省く。上記の二つのモラッカァ以外にも金泥や金箔装飾の作例は多いが、こ1 -‘‘ザル・ファシャーニーダルオストハーン’'zarfashani dar ustkhvan(骨の2 -“アフシャーネ・ビーフテ”afshan-ibikhtah(ふるいにかけたアフシャーン)3—上記の“1"と“2"の何れにも属さないと思われる技法による金の装飾-64 -

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