鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
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―2―(注8)、ムーサたちのモティーフは言うまでもなくラファエロの壁画(を複製したマ(invenzione:主題構想)や作品の(ルネサンス的な意味での)イデアを解釈して表現した結果とされている(注11)。そして原画を解釈する方法や度合いは版画家により、また場合により様々であった。(注12)。テに献呈されたものだった。そこには、愚かな判断を下したことで名高いミダス王を描くことで、分別をわきまえたアルフォンソ2世を逆説的に称揚したとある(注7)。図像は、アポロとマルシュアスの音楽競技のエピソードを基本にしながらも、審判者をミダス王とすることによって「ミダス王の審判」のエピソードを融合させたものだ。サヌートは原画を3つの場面に分割しているが、アルフォンソに献呈する際は3枚を貼り合わせたと思われる。右の画面にはアポロとマルシュアスの音楽競技の場面、中央の画面には勝者アポロが敗者マルシュアスの皮を剥ぐ場面、左の画面には競技の際にマルシュアスに軍配をあげたミダス王にアポロがロバの耳を押しつける場面と、ミダス王の床屋が「王様の耳はロバの耳」という秘密を川岸でこっそり漏らす場面が描かれている。原画に登場しないモティーフについて・問題提起版画には原画に含まれないモティーフがいくつか含まれている。つまり、右の画面ではアポロの後ろの木、中央の画面では木の下に集うムーサたちと背景の町、左の画面ではヴェネツィアの町とその右にある木立である。このうち背景の町のモティーフおよび木立のモティーフは、ティツィアーノが原画を描いた版画からの引用でありルカントニオ・ライモンディの版画)からの引用である〔図3・4〕(注9)。ムーサたちが腰掛ける岩にサヌートは「空いた空間を埋めるためにラファエロのパルナッソスの絵から引用した」とわざわざ記している(注10)。複製版画における原画の改変は、一般には版画家が原画のインヴェンツィオーネ本作の原画に含まれないモティーフを観察しても、それぞれが性格を異にしていることが分かる。背景の町や木立のモティーフは原画の雰囲気を損なっておらず、インヴェンツィオーネのやわらかな解釈と見なせるだろう。しかしその一方で、ヴェネツィアのモティーフ、あるいはムーサたちのモティーフは、原画とはあまりに異質であり、サヌートの創意が前面に出ているように思える。それゆえ、サヌートがこれらのモティーフを「複製版画」に導入することによって何を表現したかったのかを問うことが必要となるだろう。本稿の以下の部分では、サヌートがこれらふたつのモティーフを導入した理由を探って行くことにする。

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