―159―棍棒を手にした髭面の「拒絶」が立つ。世俗文学の図像の生成にあたって、宗教画が大きな役割を果たすが、横たわる人物と大きく枝を広げる薔薇の木の組み合わせは「エッサイの木」を想起させ、「拒絶」が立つのは「キリストの降誕」におけるヨセフが占める場であり、「夢見る人」がみせる手を頭部にあてるポーズは同場面の不信のヨセフにしばしば見られる。また、片手で頭部を支えてベットに横たわる人物表現は「降誕」での聖母の姿であり、古代の伝統を引くものである(注14)。中世における身ぶりを研究したフランソワ・ガルニエは、横たわる姿勢について六とおりの身ぶりを挙げ、頭を手で支えで横たわる姿勢は夢やヴィジョンを見る人を表現する表象コードと定義している(注15)。夢見るヤコブやヨセフなどに広く用いられた。第二のタイプは、夢の内容である「愛の庭」を図像化したタイプである。14世紀初期に出現したとクーンは考える〔図7〕。恋人は、「悪徳」の擬人像たちが表現された「愛の庭」の城壁に辿り着いており、そこからは舞台となる「愛の庭」の内部がかいま見える。眠る恋人(作者)は主たるテーマではなく、ここに挙げた例では、著者はイニシアルの中で書見台に向かって筆記する姿で描かれている。第三のタイプは、第一と第二を融合したもので、ベットに眠る恋人、「拒絶」、「愛の庭」が描かれ、14世紀初期にはすでにその例は見られる〔図8〕。第二のタイプで物語が展開する場として具体的に表現されていた「愛の庭」が、ここでは塀や塔に還元され象徴的に描かれる。第四のタイプは、「拒絶」を欠き、単独でベットに眠る恋人を描く例である〔図9〕。早い例は13世紀後半に見られる。頭を左にベットに横たわり、右手で頭を支える例のポーズで描かれる。14世紀後半になると、横たわる人物の自然な様相が重視され、仰向けに眠る姿勢も頻繁に見られるようになる。また、三次元的空間に対する絵画表現上の進展が『薔薇物語』の扉絵にも反映され、初期には無地の平面に過ぎなかった背景に奥行きが表現され、ベットも天蓋が付き空間的となり、画平面に対して斜めに置かれる場合もある。第五、第六のタイプは、テクストの展開に従って物語を挿絵化するタイプである。テクストで語られる物語は、寝床に入った作者が夢の中で、目覚め、起きあがると、身支度を整え、外に出て、自然の中を歩きまわって「愛の庭」に向かい、その中に入る、という具合に展開する。挿絵もテクストの展開を追うようにして事件の進展を描く。第五のタイプ〔図10〕は、ヴァイツマンやヴィックホフが行った物語の絵画化の方法の分析によるところの連続的叙述様式を用いており、ひとつの画面の中に、物語の進行に沿って登場人物を何度も繰り返し描出している。第六のタイプは、連続叙述
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