―160―様式をとらずに、四つのコンパートメントに場面を区切り、それぞれの区画のなかに出来事の局面を一場面ずつ描いてゆく方法である〔図11〕。以上の六つが『薔薇物語』の扉絵の図像タイプとしてクーンが分析したものである。これらの六つの図像タイプは必ずしも厳密なものではなく、中にはどのタイプに属すのか曖昧なものもあり、きわめて多様な様相を呈しているとも言える。しかしながら、一枚しか挿絵の施されていないような慎ましい『薔薇物語』写本でも、挿絵化されるのは、必ずこの夢のテーマであり、「夢見る人」は『薔薇物語』の扉絵を飾るテーマとして定着していたと言ってよかろう。ここで、もう一度、『愛に囚われし心の書』の「王の夢」に戻って、『薔薇物語』の挿絵群と比較してみるならば、パリ国立図書館Ms. fr.24399〔図2〕のベットに横たわる人物と背後に配したもうひとり人物という構図は、クーンの分類の第一タイプに属するもので、「拒絶」を伴う「夢見る人」のタイプを想起させる。また、ベットの上で覆いもかけずに、昼の身支度のままで横になり、おきまりの夢を見る仕草で手で頭部を支えながらだらしなく膝を開いた姿勢は、1420年代に制作されたウェールズ国立図書館のAberystwyth, NLW MS 5011E〔図12〕や15世紀後半のボードレイアン図書館のMs. Douce 195〔図13〕にきわめて似たものが見られる。また、パリ国立図書館蔵のもう一点の『愛に囚われし心の書』Ms. fr. 1509に見られる、カーテンで三方を取り囲まれた箱形空間のなかに据えられたベットに眠る人物表現は、図11に挙げた空間の意識が芽生えた1400年ころの『薔薇物語』の冒頭挿絵の左上コンパートメントに見られる「夢見る人」の表現にきわめて近く、こうした表現を借用したものと考えられる。3点の『愛に囚われし心の書』の冒頭挿絵の「王の夢」の図像が異なっているのは、それぞれの画家たちが『薔薇物語』の扉絵として確立していた幾種類もの図像から思い思いに着想を得て取り込んだからであろう。そして、それが可能なほどに『薔薇物語』の「夢見る人」の幾種類もの図像は流布していたのであろう。3点の『愛に囚われし心の書』の「王の夢」の図像の源泉をたどることで、「夢見る人」が『薔薇物語』の扉絵として流布していたばかりか、夢物語というジャンルを飾るトポスとなって定着していた状況が浮かび上がってくる。5.夢見る人=語り手=著者『薔薇物語』の冒頭挿絵が夢物語の扉絵のトポスとなり、『愛に囚われし心の書』の三様の「王の夢」にも流用された点は先に指摘したとおりだが、次に、「夢見る人」
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