4初期浄土宗絵画の研究―193―――知恩院所蔵「二祖曼荼羅図」をめぐって――研 究 者:プリンストン大学大学院 美術史考古学科 博士後期課程 はじめに本稿では、初期浄土宗絵画研究の一環として、浄土宗総本山である知恩院所蔵の「二祖曼荼羅図」をとりあげる。先行研究としては竹内尚次氏の本二幅対祖師絵についての論考があるが(注1)、構造及び内容について簡略に述べるだけで、本二幅における祖師伝の各場面の内容とその意義については、数段を除いては特に示されていない。そこで、本稿では、竹内氏の予備研究に基づいて本二幅の内容説明をより確固なものにしたいと思う。また、「対面像」としての本二幅が、どのように初期浄土宗思想を反映しているのかという問題を考察する。はじめに両作品の構造について述べる。各画幅は絹本着色及び金泥・截金で、縦122.5センチ、横116.5センチの画面中央に正面を向いて椅子に座っている善導大師と法然上人が描かれている。その周囲には中央上部から右廻りに伝絵が図絵されている。法然図における伝記絵は中央上部から左側上部まで数えて十六段の場面からなるもので、それぞれの場面がすやり霞で分離されている。また、画面上に全部で十枚の色紙形があるが、それらは空白である。もともと一つの色紙形が一つか二つずつの場面の内容を物語る目的だったと思われる。法然図と同様に善導図には十枚の空白の色紙形があり、伝記絵のそれぞれの場面はすやり霞に分離されている。両肖像画の右左上部に色紙形がある。それらの色紙形は空白であるが、他の現存する法然・善導像と比較すると、そこに六字名号か、あるいは『無量寿経』、善導の『往生礼言賛』、法然の法然上人図の伝絵法然図における伝記絵は法然の一生を省略的に描いたものである(〔図1〕を参照)。竹内氏が指摘したように、法然図は「絹地や彩色の剥落が多くて十分な検討がしにくいので困る」(注2)。しかし、法然諸伝絵、特に浄土真宗諸寺が所蔵する鎌倉・室町時代に制作された掛幅画系伝絵を参考にすると、本伝絵のそれぞれの場面の内容が比較的明らかになる(注3)。そこで、まず最初に内容を確定することが可能である場面について解説し、次に内容について疑問が残る場面について考える。最後に内容の『選択本願念仏集』から引用した文を書くためにあったと考えられる。キョウ シネ−ド
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