8引用と転用―234―――近世初期風俗画にみる図様継承の諸相――研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 研究生 畠 山 浩 一宗教画や説話画と異なり、通常、作画の具体的なもととなる文字テキストを持たない風俗画という分野では、作画における手本、参考例として、先行作品が果たした役割は大きい。事実、近世初期風俗画においては、一つの図様がその〈かたち〉と〈い粉本として蓄積され、積極的に活用されていたことが明らかである。落款印章を伴わない作品が多いこともあって、そうした共通図様の指摘によって作品の系統化を図る研究も広く行われ、一定の成果を上げてきている。今回の研究では、そうした共通図様を持つ作品群の数的充実を図ると共に、図様の継承という行為がどのように行われるのか、継承内容の差異にどのような意味が見いだせるのかについて、図様の「引用」と「転用」というキーワードを用いて分析を試みたい。具体的な比較分析に入る前に、本研究を進める上で重要となる、〈かたち〉と〈い草」の三段階に区分する。「図様」は描写された事物の〈かたち〉全般を指す言葉として使われるが、本論ではより限定的に、作品を構成する一つ一つの情景=個別モチーフの〈かたち〉を指す言葉として用いたい。次に「姿型」であるが、これは個々の人物そのものの〈かたち〉である(注1)。風俗画に限らず、人物の登場するすべての絵画において基本となるのが、この「姿型」である。「仕草」は字義通り、人体各部位の具体的な動き、動作を指す。ただし絵画の場合、映画などと違って動作は静止した〈かたち〉で象徴的に表される。なお、目の動き、口の動きというように、「表情」もこの概念に含まれるものとする。それぞれに対応する〈いみ〉の概念が「主題」「機能」「態意」である。「主題」は作品全体のテーマを指して用いられる場合もあるが、本研究ではそれは画題として区別し、個別モチーフの〈いみ〉を指す語として用いたい。「機能」とは各人物が作品内において果たす役割である。主役、脇役からエキストラまで、登場人物それぞれに役割が振られる訳だが、特定の「主題」内においてそれはより具体化、明確する。最み〉を微妙に変えながら、いくつもの作品に継承されており、工房内において図様が○〈かたち〉と〈いみ〉の概念み〉をめぐる概念について定義付けしておく。まず〈かたち〉を「図様」「姿型」「仕
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