―235―後の「態意」は造語である。「仕草」の表す〈いみ〉として、適当な言葉が見つからなかったので用いることとした(注2)。例えば、「Vサインを出す」という「仕草」には「勝利のアピール」という「態意」が表されていることになる。なお、「表情」によって表される「感情」もこの概念に含むものとする。○図様の「引用」というその図様固有の主題が、図様と共に継承されるパターン、もう一つは図様は継承されるが、主題は別のものに変えられてしまうパターンである。要するにオリジナルの〈いみ〉を継承するか否か、ということであるが、前者を図様の「引用」、後者を「転用」と呼んで区別することとしたい(注3)。まず「引用」について具体的にみていくこととする。図様、主題共に同じ、いわば全くのコピーについては、ここでは特に論じない。問題としたいのは〈いみ〉を継承しながら〈かたち〉に変化が生じている場合だが、〈かたち〉の変更の仕方によって、三つのパターンに大別できる。まず一つめは、ミニマムな〈かたち〉、各人物の「仕草」を変えていくパターンである。例えばそれは「本田平八郎姿絵」〔徳川美術館蔵、図1〕に端を発する「文使い美人図」の諸作品に見いだせる。『初期浮世絵聚芳』所載作品〔図2〕に代表される「文使い図」の姿型は、出光美術館蔵〔図3〕、高津古文化会館蔵の各「文使い図」へと継承されていく。しかし、禿のそれは反転され、遊女のそれには「振り返る」、「右手に三味線を持つ」といった変更が加えられていく。また「誰ヵ袖美人図」〔根津美術館蔵、図4〕の場合、『初期浮世絵聚芳』系の「文を取るべく手を差しだす」仕草と、「本田平八郎姿絵」に登場する葵文の小袖の女の「襟元に手を添える」という仕草が組み合わされてもいる。いずれの場合も、機能及び主題に大きな変更はない。主題に影響を与えぬ範囲内で、仕草を変えて姿型に変化をつけ、オリジナルに対する〈かたち〉の上でのバリエーションを創出している訳である。これらに対して、図様を構成する人物がより多人数=群像になると、仕草に加えて姿型そのもの、登場人物そのものを入れ替えることで変化をつける作例が認められる。「花見遊曲図」の「媾曳」図様〔図5〕を反転した形で継承する「士庶花下遊楽図」〔百河豚美術館蔵、図6〕では、女性陣の先頭を歩んでいた二人の少女は消え、代わあいびき図様の継承=借用は大きく二つに分けることができる。一つは「文使い」や「媾曳」
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