鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
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:唐代山水画の主題に関する研究―256―――神仙山水と樹石画を中心に――研 究 者:黒川古文化研究所 研究員  竹 浪   遠1唐代山水画の主題考察の意義と方法山水画が唐代(618〜907)に著しい発展を遂げたことは、広く知られている。盛唐(8世紀前半)には、呉道玄や李思訓、李昭道による山水画の変革「山水の変」があり、後世文人画の祖とされる王維も活躍した。中唐(8世紀後半〜9世紀前半)には韋偃、張(、劉商らによる樹石画が流行し、また偶然でき上がった墨面から連想によって作画を行う6墨画も、王黙(墨)らによって行われた。樹石画、6墨画は水墨画の成立をうながし、中唐から晩唐(9世紀後半)には既存の着色山水の一方で新来の水墨山水が発達してゆく。多彩な動きは、続く五代・北宋に山水画が中国絵画の最も中心的な画題となってゆく基礎となった。けれども、あまたの画家が繰り広げたそれらの精華は、度重なる王朝の交代とともに失われ、現在では敦煌の仏教壁画や墓壁画の背景描写、我が国の正倉院に伝えられた絵画・工芸意匠などにその片鱗を留めるに過ぎない。唐代山水画の全貌を探るためには、これらを詳細に観察し、張彦遠『歴代名画記』(847年序)や朱景玄『唐朝名画録』(836年以後)などの画史画論に残された記述と突き合わせ、様式分析の作業を続けていくことが不可欠である。一方、唐代山水画には何が描かれていたのかという主題面への問いも、また重要である。主題と表現は絵画の発展を導く両輪であり、両者の有機的なつながりを解明することが求められる。唐代の山水画はどのような意味内容を持ち、当時の人々はそれにどのような思いを抱いていたのだろうか。敦煌や唐墓壁画の山水表現は背景描写としての性格が強く、正倉院の作品についても意味内容の明らかな資料は多くない。い。唐代山水画の芸術的達成の解明は、表現面のみならず主題面においても困難な状況にある。けれども、手掛かりが無い訳ではない。唐代文化の精粋とも言うべき唐詩には、絵画に関する詩が多数残されており、主題やモチーフ、観者のイメージを知ることができる。このうち絵画を題材とした題画詩については、これまでも多くの研究がなされている(注1)。ただ、題画詩以外にも詩の一部に絵画を詠み込んだものも存在する。それらも同様に注目すべきであり、現存する唐詩を丹念に調べていく必要がある。『歴代名画記』、『唐朝名画録』にも、作品の描写内容についての具体的な記述は乏し

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