鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
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―303―墓などにも用いられており〔図19〕、官撰の『営造法式』にもこの文様〔図20〕が記載される。4.蓮花文の系譜(1)五代・北宋前半(907−1022)四川省成都市永陵の棺床側面に見える花文〔図25〕は、五弁の花弁上に蓮肉をもち、その周囲に花弁を施す〔a〕。浙江省臨安市玲S鎮祥里村康陵から出土した銀花片〔図26〕の花文〔a〕も蓮肉を中心に同心円状に花弁を並べ、扇状の側面観の葉〔b〕をもつ。河北省定州静志寺舎利塔地宮東西壁に見える花文〔図27〕は、〔図26〕と同様の花文〔a〕をもち、花から宋朝系葉文〔b〕をだす。〔図26〕の銀花片に見た同じ文様が、越州窯青磁の毛彫り文様で施される蓮花文〔図28〕に見え、金銀器と越州窯の毛彫り文様との類似性が高いことが知れる。耀州窯青磁の浮き彫り文様〔図29〕に見える花文〔a〕は〔図25〕に類似し、三弁の花弁上に蓮肉をもち、オモダカ〔b〕が見える。また、11世紀前半と考えられる磁州窯枕上面の花文〔図30〕は、6枚の花弁をもつつぼみ状〔a〕であり、オモダカ〔b〕も見える。(2)北宋中葉・後半(1023−1127)五代・北宋前半に見た〔図28・29〕のモチーフは、北宋中葉・後半になると簡略化されてくる。耀州窯青磁に見える〔図31〕は、簡単な表現の花弁に蓮肉をもつ花〔a〕、葉脈をもつ葉〔b1〕とオモダカ〔b2〕が表現される。また、〔図32〕は蓮肉を持たない花弁だけの蓮花文〔a〕で、葉は側面観のものと上面観のものがある。耀州窯青磁には、この刻花の蓮花文と同様の印花文がある。磁州窯枕上面に見える〔図33〕は、〔図32〕同様蓮肉をもたない花文〔a〕で、左右対称に花弁がのび、上面観の葉〔b1〕を置きオモダカ〔b2〕を配する。磁州窯ではこのほかに、蓮肉をもつ花文が散見される。〔図34〕は定窯白磁に刻花で施された花文で、左右対称に広がる細長い花弁が翻り、櫛描文を用いる。重20年(1053)葬の墓誌をもつ北京市豊台区豊台鎮出土白磁盤(北京市文物管理処1972−3)に同様の文様が見える。江南の越州窯では〔図34〕のような刻花文と櫛描文の蓮花文、また〔図30〕のようなつぼみ状の花もある。陶磁器以外の類例は比較的少なく、工芸品では、写経を慶暦3年(1043)に入塔したことが分かっている浙江省瑞安市慧光塔出土の描金堆漆舎利箱に見える〔図35〕は、左右対称に花開く蓮花文〔a1〕とつぼみ状のもの〔a2〕が見え、側面観の葉〔b〕をもつ。北宋晩期とされる河南省洛陽市@山墓からは〔図32・33〕と同様の蓮花文を

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