鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
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―304―(3)小結施す銀器〔図36〕が出土している。墓葬美術では、北宋皇陵に類例を探しえず、北宋晩期に比定される河南省洛陽耐火材料工場13号墓の磚に蓮肉をもつ束蓮文〔図37〕が見える。『営造法式』には、〔図38〕の花文のように蓮肉を持たないものがあり、上面観の葉、オモダカが見える。さらに〔図39〕の花文〔a1〕は蓮肉を持ち、花文〔a2〕はつぼみ状の蓮花であり、側面観の葉が見える。〔図25〕の五代皇帝陵に見える文様は、〔図29〕の耀州窯青磁の浮き彫り文様に反映され、牡丹文と同じく、伝統的な宮廷趣味を具現した文様が陶磁器に反映されたものと考えられる。一方、〔図26〕の銀器などの文様が、越州窯青磁の毛彫り文様〔図28〕に影響を与えており、これも牡丹文のところで述べた通りである。〔図28〕の毛彫り文様と〔図29〕の浮き彫り文様は、モチーフの違いのほかに、影響を受けた背景の差(墓葬美術と金銀器)が技法の差につながったとも考えられる。北宋中葉・後半にいたり、〔図31〕や〔図32〕のような刻花文による簡略化された文様になり、印花文も多く生産され、〔図35〕や〔図36〕などの工芸品などにも散見され、どちらか一方の影響というよりも双方的な影響関係を見ることが出来る。簡略化された文様は『営造法式』にも見られ〔図38〕、民から官という図式がここでも伺える。一方で、〔図25・26・28・29〕で見た伝統的な宮廷趣味を具現した文様に類似する〔図39〕もあり、必ずしもすべての文様が大衆化した後に、『営造法式』に記載されるということではなく、個別具体的な影響関係を見ていく必要がある。5.宝相華文の系譜(1)五代・北宋前半(907−1022)四川省成都市永陵の前室第三券券額上に見える〔図40〕の花文〔a〕は、三弁の花芯、その周囲に細長い花弁と間弁をもち、三葉の宋朝系葉文〔b〕をもつ。浙江省臨安市玲S鎮祥里村康陵の中室左壁には〔図41〕の花文が見え、牡丹花に似た花芯、同心円状に配した細長い花弁と間弁をもつ。至道3年(997)に埋葬された北宋皇陵の章<潘皇后陵の石柱に見える〔図42〕は、〔図41〕同様の宝相華文〔a〕であるが、間弁はなく、込み入った宋朝系葉文〔b〕をもつ。耀州窯青磁に見える〔図43〕は、浮き彫りで花芯を中心に細長い花弁を同心円状に並べる花文〔a〕をもつ。陝西省彬県城関鎮東関村出土耀州窯青磁に見える〔図44〕の花文〔a〕は、下半の円形基部から放射状に広がる細い花弁をもち、その上部に大きな三花弁が置かれ、三枚葉の宋朝系葉文〔b〕をもつ。同様の文様が磁州窯の掻き

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