鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
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=中国南北朝時代における青銅器の研究―354―研 究 者:和泉市久保惣記念美術館 学芸員  橋 詰 文 之1 研究意図と課題中国美術史において金属工芸品の研究については商時代(殷時代を以下商時代と表記する)から漢時代の作品が主に扱われてきた。力強い造形や器種の豊富さにおいて他の時代の金属器と比べて、抜きん出た時代であったことに加え、絵画資料や文献資料の乏しい古代文化を知るための重要な資料でもあることも、研究が進んだ理由と思われる。一方で、古代から近世をとおした中国工芸史という視点からは、3世紀以降の青銅器については研究の対象とはなってこなかった。漢時代までの青銅器と南北朝時代の青銅器では明らかな違いがあり、この変化は金属工芸史において興味ある課題と思われる。文様を施し、重厚な造形が与えられた漢時代までの青銅器に対し、南北朝時代の青銅器は文様がなく比較的薄手に作られている。本稿では三国時代以降の青銅器の有様を、国内の博物館施設などに所蔵されている作品、中国で出土した作品、および発掘報告書に紹介されている作品を南北朝時代の作品を中心に概観してみたい。なお表題を南北朝時代の青銅器としたが、三国時代から東晋、五胡十六国時代の作品に関しても言及している。筆者は勤務する和泉市久保惣記念美術館において1999年に「中国の響銅―轆轤挽きの青銅器―」と題する展覧会を、同館の中野徹氏の主導のもとで開催する機会を得た。同氏は南北朝時代の青銅器について、響銅という視点で以前より注目をしており、本稿もその考察に負うところが大きい(注1)。響銅は、日本美術史では佐波理と記され正倉院に所蔵される碗や匙等の材質で用いられる語である。響銅は青銅の一種で、青銅からあえて別の語をもって呼称される根拠は合金の成分によっており、正倉院の佐波理加盤は銅が約80%、錫が約20%という比率で通例の青銅より錫成分が多いことが特徴となっている(注2)。正倉院などの佐波理の形態に共通する特徴が南北朝時代の青銅器に見られ、それらに関しては響銅という呼称を用いることとする。2 国内伝世品に見られる特徴国内に所蔵されている作品から、響銅の特徴を挙げてみたい。・金属 正倉院の響銅に見られるように金属色は明るい黄色を帯びる。商周〜漢時代の青銅の彝器や飲食器に見る、通例の黄色い金属色との差を明確に区別することは難

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