鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
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―355―しい。というのも、錆に覆われていない金属が露わになっている部分があったとしても、薄い汚れの付着、手ずれなどによるくもりが生じており、金属そのものの色を見るには研磨をかけなければならないためである。大多数の響銅の金属色は黄色であるが、一部に白色(銀白色)の作品がある。藤井有鄰館所蔵の響銅投壺・承盤ほか明器一括資料は、轆轤削りの痕、溶接による接合、かしめによる接合など響銅の特徴を備えた作品だが、表面に現れた金属色が白色を呈している。河北省曲陽県北魏墓出土の明器一括資料にも同様の色のものがあり(注3)、響銅の定義に黄色と決めてしまうことはしがたい。南北朝時代の青銅器の金属成分の調査報告は少なく、古代の青銅器の合金比との比較はできていない。中国で行われた分析として、広東省広州市の晋時代墳墓出土の響銅の特徴を備えた碗について報告がある。断面部分で銅65.52%、錫34.48%、表面で銅10.68%、錫74.64%という結果が出ている(注4)。・黒色錆 響銅器には通例の青銅器同様に緑色の錆が生じる。その一方で響銅器に特有の金属表面の経年現象として、黒色変化がある。地金の黄色を覆うように艶を伴う黒色が生じている作品が多数ある。作品全体を濃い黒色が覆うもの、淡い黒色で地金の黄色をうっすらと残しているものなど作品によって様々な様態を見せる。そして黒色は艶のある状態であるものが多い。国内の作品は補修を経て世に出る場合がほとんどであり、この黒色の艶は塗料や磨きによる状態である可能性も高いが、響銅独特の見過ごせない現象すべきであろう。戦国から漢時代の錫を多く含む青銅鏡に艶のある黒色を帯びた作品があることから、響銅器の黒色は高い錫成分比を推測させる現象といえる。・轆轤痕 響銅器の表面は鋳造後に表面の鋳肌のざらつきを除去するために轆轤を使って整形を行っている。表面を拡大鏡で観察すると1mm未満の幅の細かな筋が横方向に密にとおっている。器の外面はもちろん内側まで轆轤整形は施され、細い頸の水瓶でも銑(轆轤加工用の工具)の刃が届くぎりぎりまで行われている。・かしめ、鑞付け 響銅器には部品を組み合わせて製作する際に、かしめ(鋲留め)と鑞付けが使われている。かしめは蓋の鈕で多用されるほか、柄香炉の柄と炉の接合などに用いられている。鋲で2つの部品を貫き鋲の両端をつぶして固定するという方法は少なく、接合する部品の一方にほぞを設けて作っておき、もう一つの部品の孔にそれをとおしてほぞ先端をつぶす、という方法が多い。鑞付けは国内にある作品からは見きわめにくい技術で、鑞付けで接合している可能性が高くても、一鋳(1組の鋳型を用い、1回の鋳造で作品全体を作り上げてしまうこと)で作られたものとの見分

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