鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
366/535

作品細部の特徴―357―文を型から鋳出しているものが多く、陽刻文様のない響銅器の範疇からはずれるものであるが、側面に細い凸線を巡らせている湖南省長沙黄泥塘晋墓出土のこの洗は轆轤整形している可能性が高い。碗〔図7、8〕は圏足のある容器で、深さのあるもの、浅めのものとがある。口縁に凹線の弦文を施していることから、響銅器と判断できる。唾壺〔図9、10〕は頸が短く口径が広めの形態から、5世紀後半頃より頸が長く口径が小さくなる傾向が見られる。そのほか響銅の技術を使用していると思われる器種としては、長頸瓶〔図12〕、柄香炉、盒、魁〔図11〕、托のある碗などがある。以上の器種が、三国時代から南北朝時代にかけて、響銅と考えられる特徴を持つ代表的なもので、陝西省、河南省、山東省、河北省、遼寧省など北の地域、江蘇省、浙江省、福建省、広東省、湖南省、広西壮族自治区、湖北省、安徽省、貴州省など南の地域ともに出土している。〈南京市博物館〉南京市博物館には南京市周辺で出土した三国時代から南朝時代にかけての青銅器が所蔵されている。今回は、南京長崗村5号墓(三国時代・呉)、南京西善橋墓(東晋時代)、南京黒墨営墓(南朝時代)の出土品および出土品以外の作品を調査した。青銅双魚文洗〔図13〕南京長崗村5号墓出土。口径34.2cm。鍔状の口縁のある大型の盤で、内底には凸線の円圏と2匹の魚が表されている。これらの凸線による文様は鋳型から鋳出されたものである。明らかな轆轤目は見られなかったが、側面や口縁は滑らかな曲面で仕上げられている。漢時代の青銅器にも見られる器形であるが、それらの側面の仕上げは粗い研磨痕が残るのが通例である点で整形作業の違いをこの盤からはうかがえる。青銅U斗〔図14〕南京長崗村5号墓出土。長23.1cm。3本の足と龍頭飾りのある柄を備える。通例のU斗と異なり、深さがあまりなく、注口がない。外側面は中央部を凹帯状に低く作り、内側面には口縁寄りの位置に段を設けている。柄、足と盤形部とが溶接によるものか、一鋳によるものかについては接合部分の観察からは判断しがたい。外底面に長さ3cm、高さ0.5cmほどの湯口の痕のような突起があり、もし湯口であるならば外底面を上向きの位置にした型作りがなされたことになり、足は盤形部の鋳造とは別に作られたものと考えることができる。

元のページ  ../index.html#366

このブックを見る