鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
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―359―と思われる特徴をよく備えた作品を調査することができた(注8)。青銅U斗 長さ40.7cm。傾斜する口縁を持ち深めに作られた容器、蹄形の足、容器近くで二度直角に曲がり水平に延びる柄などの特徴は南北朝時代6世紀のU斗と考えられる。全体を錆と泥が覆い、地金を見ることができない。表層は錆が進行しており、錆の下層の胎が見えている箇所がある。3本の足の内、柄の付いた側と反対側の2本の足の先端が欠失している(注9)。容器部外側面の足との接合部分は、四角形に厚く作られている。響銅器の薄く、軽快な特徴と異なり、容器の側面や注口の厚い作りが目を引く。轆轤挽きの痕は錆と泥のため確認しがたかったが、外側面の足接合部分と他の部分との厚薄がある点で、轆轤整形は施されなかったと考えられる。青銅魁 高12.1cm、口径23.7cm。側面に短い柄が付き、外底面に径1cm程度の半球形の突起(足)3個が付いている。柄は本体を轆轤挽きした後に溶接したものと思われる。すなわち柄が取り付けられた状態では轆轤削りによる規則的な横方向の筋は生じ得ないからであり、柄の付け根周囲は他の側面部分より厚くなっていることも溶接の痕跡を示すものかと思われる。表層が錆に侵され淡緑色になっており、淡緑色の錆が剥がれ落ちた下層に茶褐色の錆の層が見える。全体に錆が進んでいるが内外側面の弦文、そして内底面の轆轤目が確認できる。口縁外側には2本の凹線、その下方の口縁が外反りする付近に2本の凸線が見られる。口縁内側には稜がくっきりと立つ凸線1本、その下方の口縁が外反りする付近に1本の凸線が見られる。これらはいずれも轆轤回転による削り加工で施された線と思われる。短い柄の付いた魁という器種は漢時代から作られている。しかしこのように規則的な横方向の細い凹、凸線で飾られたものは、三国時代以降の製作と考えられる。響銅器の特徴として薄さがあるが、この作品は手にして重さがあり、厚い作りがなされている。6世紀の響銅器の軽快さとは異なっている。また、この作品には、外側面横方向に帯状の淡緑色と黒緑色の線が現れているのが注目される。数mmから10数mmの幅で5本が確認できた。淡緑色部分は地金がもともと現れていた箇所で、黒緑色部分は使用当時には何らかの塗料が塗られていた箇所であった可能性が考えられる。彩色された青銅器は漢時代の例がいくつか知られるが(注10)、三国時代以降の轆轤削り加工を施した青銅器で彩色が確認された作品はまれである。青銅香炉形器 総高17.4cm。宝珠形盒と燭台と三脚盤を組み合わせて接合した特殊な形をなしている。藤井有鄰館所蔵の明器一括の内の宝珠形盒、燭台、三脚盤(注11)を順に接合したかのような形で、この接合が当時されたものか、近100年来程度の時代になされたのかは判断しがたかった。燭台頂部は宝珠形盒の外底に突き通すよ

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