―447―ちの身体的・精神的な調和を図る目的で行なわれたのである。前述の「日記帳」は、こうした朝の練習のために準備されたとも考えられる。これまでみてきたように、イッテンの記述には様々な点で音楽とのかかわりがみられ、音楽と美術を統合する視点をもっていたことが具体的に明らかとなった。4.色彩論と色彩教育1961年の『色彩の芸術』には、有名なイッテンの12色環が掲載されている。それは、円の中央に三角形を三分割して赤・黄・青があり、その外側に三角形が三つ、それぞれが接する中央の三角形の二色を混合した橙・紫・緑、更にその外側に12に色分割された円となっている〔図6〕。この形の12色環は、『イッテン日記』の色彩論には載っていない。しかし、山室・笹川は、イッテン・シューレで『色彩の芸術』にある12色環が練習課題として出されていたと語っていた。その手順は、上記の内容を中央の三原色から描き、外側に向かって12色環までつくるというものであった。12色環はイッテンの色彩理論を示しているが、色彩練習として考案された可能性がある。また、イッテンは1917年にはすでにチェス盤状の画面を色彩練習に取り入れ、その後の教育活動において用いた。チェス盤状の画面を使ったコントラストの練習や四季の色を表現する色彩課題をイッテンは授業で度々行わせていた。このチェス盤状の画面を用いる方法は、材質感の練習にも使われた。イッテンの「春」「夏」「秋」「冬」は、チェス盤状の画面を利用したもので、学生への授業課題とつながりのあるものと考えられる。螺旋や円の運動、幾何学的な形、色彩と墨の律動感の組み合わせなど、授業課題とのかかわりが感じられる作品が多い。先に述べたように、イッテンの作品には、色彩のコントラストによる効果を意識しているものが多いが、これは、イッテンの色彩論の探究や教育活動とも密接に関わっていたと考えられる。おわりにイッテンの色彩研究は、音楽という他の芸術領域と連関しながら、理論と実践が緊密な関係を持っていた。実践の中には、イッテン自身の制作活動と教育活動の二つがあることが重要である。イッテンの『色彩の芸術』は、理論書であると同時に実践書でもあり、色彩を学ぼうとするものがこの書をもとに実践することで色彩の感覚を高められるようにすることを目的に纏められている。この傾向は、『イッテン日記』も同様であり、理論書であると同時に造形芸術の教育書であった。これまで述べてきたように、イッテンの色彩表現の根底には、広範にわたる色彩研
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