18世紀フランス風景画へのヨーロッパ諸国の影響17世紀のオランダ風景画購入ブームと、その影響―451―研 究 者:兵庫県立美術館 学芸員 吉 田 朋 子はじめに18世紀末から19世紀にかけてのフランス風景画は、近年特に精力的な研究の対象となっている。とりわけ、野外での制作は、最終的に印象派を誕生させるような、自然への新たな態度を示すものとして、注目を集めている(注1)。しかしながら、18世紀のフランス風景画は、野外制作に代表される態度に収斂していくような一貫した展開を示したわけではない。まず、一つの大きな類型として、ブーシェに代表されるロココ様式が非常に流行した。一方で、景観画のように正確な地誌情報を提供することを目的とするような作品がさかんに描かれるようにもなったし、新古典主義美学の台頭に伴い、17世紀の偉大な伝統を復活させ、かつ古典古代を連想させるような要素が風景画にも要請されるようにもなっていた。17世紀から引き継がれてきた厳格に構成された古典的風景画〔図1〕と、ロココの人工的ながらも官能的な風景表現〔図2〕、そして現実の風景により即した新しい風景表現〔図3〕が連立している。その様相は、複雑ながらも魅力的である。これらの様式は、それぞれ独立しているわけではない。ブーシェ自身も、1740年のサロンには『森の風景』〔図4〕という、毛色の異なる作品を出品している。二人の点景人物が描きこまれているが、ローマの兵士であり、時代の流行を意識していることが分かる。このような状況をより深く理解するためには、19世紀から遡及する視点ではなく、18世紀の現実に寄り添いながら、その展開を見ていくこともまた要求されているように思われる。関係する分野があまりに膨大であるため議論の枠組みを設定することが困難であるが、カイユーの貴重な著作や、コルナギ画廊の展覧会、風景画に関して開催されたコロキウム(注2)が、包括的に18世紀フランス風景画を捉えるための取り組みとなっている。本研究では、ヨーロッパ各国からのフランス風景画への影響を確認することにより、18世紀フランスの風景画の置かれていた現実を少しでも明らかにすることを目的とする。オランダ風景画は、後の世代にとってたびたび重要な参照点となった。ヤコプ・ファン・ロイスダールの作品が、ドイツ・ロマン主義風景画の誕生に大きな影響を及ぼ
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