鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
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―509―5)立体手板の各試験手順〔図4−6〕壁面の手板だけでは黒色下地の効果やキラ引き白土の塗り重ね具合を観察しにくいのではと考えて薄肉のレリーフで天人像を仕上げた手板5枚を用いてキラ引きの塗り重ね試験を行った。キラ引き白土下地は壁面手板には平筆で3回塗り重ね、1回〜3回の塗り重ね状態を階段状に示した。膠で岩絵の具を塗り重ねる繧繝では塗り重ねの膠濃度が重要な意味を持ち、彩色最下層である白土下地層からから順に膠濃度を薄く仕上げなければ彩色の階層剥離を起こす。戒壇堂四天王像の甲冑彩色には白色下地ごと剥落した箇所を多く見ることができる(注5)、剥落した後には黒色が見える。立体手板工程説明図手板1 仕上げ土のまま キラ引き白土1回 キラ引き白土2回 キラ引き白土3回 6)壁面手板試験結果区画1 ― 描画基底に処理無し、仕上げ土のまま。:目止めの行われていない仕上げ土に直接キラ引き白土下地の工程を行うと結着材料として用いている膠のみが吸い込まれて雲母と白土層に膠分が残りにくい。筆を置くと急速に膠が吸われ白土の層が脆弱な状態となる。繧繝の描画は白土下地3回塗りの効果もあって他の区画と変わらないで行える。区画2 ― 描画基底に明礬入りの礬砂引き。:礬砂引きは一定の目止め効果をもたらし、白土下地の膠分吸い込みは緩やかになる。しかし、透明な液体のため仕上げ土に目止めを行ったかどうかの見分けは付きにくい。繧繝の描画は円滑に行える。区画3 ― 描画基底に墨塗布1回。:礬砂引きと同じく一定の目止め効果をもたらし、白土下地の膠分吸い込みは緩や手板2 礬砂引き キラ引き白土1回 キラ引き白土2回 キラ引き白土3回 手板3 手板4 墨1回塗り キラ引き白土1回 キラ引き白土1回 キラ引き白土2回 キラ引き白土2回 キラ引き白土3回 キラ引き白土3回 墨3回塗り

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