鹿島美術研究 年報第22号別冊(2005)
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―510―かになる。しかも、仕上げ土に目止めを行ったかどうかも確実に見分けられる。繧繝の描画は円滑に行える。塑像の黒色と良く似た状態に仕上がっている。区画4 ― 描画基底に墨塗布3回。:礬砂引きと同じく一定の目止め効果をもたらし、白土下地の膠分吸い込みは緩やかになる。しかも、仕上げ土に目止めを行ったかどうかも確実に見分けられる。繧繝の描画は円滑に行える。塑像に確認できる黒色よりずいぶん濃く感じる。立体の手板では平板な壁面手板と異なり凸凹の凸と凹部分との境に礬砂や墨が塗布しにくいことも黒色になることで判明した。塗り残し箇所が出てくるのである。彩色工程で白色下地の塗り残しを防ぐためにも黒色は十分機能する。黒色層はキラ引き白土下地1回塗りでは透けて見えるが塗りを2回重ねることで充分見えなくなる。5.手板試験考察手板試験では仕上げ土に直接キラ引き白土下地の目止めを行った区画1と下塗りに礬砂引きや墨塗りで目止めを行った区画2・3・4では明らかにキラ引き白土の膠吸い込みが異なった。塑像の塑形表面が不均質であるだけに仕上げ土に目止めを施す工程が彩色塑像には必要なことが判る。目止めは白土でも粘土でも無色の膠溶液でも可能である。白土下地は目止めと彩色下地を兼ねるものとこれまで理解してきたことも間違いではない、手板試験でもキラ引き白土2回塗り段階で彩色工程に十分対応できる下地になっている。しかし、日光・月光像のお顔や手首に見られる輝く白の下地は厚く、キラ引き白土3回程度の塗り重ねでは再現できない。試みにキラ引き白土の彩色下地を磨き上げると若干似通った白色下地に変わる。白色の素材や塗り重ね技法が使により請来されていたのかもしれない。「墨を用いた目止め下地」は処置を施した箇所と不処理箇所の確認を容易にできる方法である。彩色を施す仕上げ土の上に目止めを済ませたかどうかは照明設備の十分でない時代に目止めが無色では施工確認は容易ではない、塗り残し箇所の確認が容易なのである。施工箇所が黒色をしていることで明白に見える。また、立体手板の工程写真で見られるように白色下地の濃さを確認するのも容易である〔図版4−6〕。工房の中で塑像の彩色手順が分業として成立していれば手順引継ぎに間違いの起こらない良い方法である。塑像に施される極彩色は完成までには目止め、白色下塗り、白色上塗り、描画目置き、繧繝下書き、繧繝彩色、金箔押し、墨描き隈取りと多くの工程を踏む、極彩色は工程の順番を間違えると成り立たないのである。しゃんふんの地肌と良く似てくる。相粉技法は東大寺の塑像群が造られたときにはすでに遣唐しゃんふん異なるのかも知れない。この磨きを加えたキラ引きの白色下地は盛唐期の相粉技法

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